カテゴリーを選択
トップ > 特集 最新技術とヒューマンパワーが融合するプライシング新時代 その価値、今の値は? > P4
江戸時代に普及して以降、「定価」がスタンダードだった「価格」の世界が今、変革期を迎えている。
キーワードは「ダイナミックプライシング」と「サブスクリプション」。
これらを支えるのは、「AIによるビッグデータ解析」などのデジタル時代の技術と、「人の感覚で需要を読む」という昔ながらのストラテジーだ。革新と伝統が共存する「新時代の価格のセオリー」を読み解く。
最新式のプライシングは「AI」と「人の手」のハイブリッドで行われることが多い。そんな中で異彩を放つのが、産地直販アプリ「ポケットマルシェ」だ。同サービスが農産物や海産物に「生産者が直接、値を付ける」という昔懐かしい方式を採用している理由とは?
「『ポケットマルシェ』が、CtoCのプライシングを採用している理由は、生産者と消費者を直接つなぐ場でありたいと考えているから。『なぜこの値段設定なのか』という理由を、生産者から消費者に向けて語る場が必要なんです」。こう話すのは、ポケットマルシェの代表取締役CEOの高橋博之さんだ。
このサービスが誕生したきっかけは、東日本大震災だった。
「私はもともと岩手県で議員をしていたのですが、農業や漁業の担い手が年々減っていくことに危機感を持っていました。みんな『生活していけない』と、都会に出ていく……。そんな折、震災が起きて大勢のボランティアが都会から支援に来てくれました。その時に初めて、『生産者』と『消費者』が直接顔を合わせることになったのです」
そして、この「出会い」が突破口に。
「生産者がどのように、どんな想いで食べ物を作っているのかというストーリーを知れば、同じ物でも『食べる』という体験は全く変わります。ストーリーを知って食べた方がおいしいということに気付いた消費者が増えつつある今、食べ物の裏側にある情報を付加価値として提供できれば、消費者も巻き込んで、第一次産業が抱える問題を解決する糸口になる。そう考えたのです」
現在の流通の仕組みでは、農家や漁師は自分で市場での販売価格を決めることができない。そこに不満を抱えている生産者が多い中、「ポケットマルシェ」は生産者が自由に値付けを行える貴重な場になっている。
「ただし、黙って出品するだけでは売れません。それでは従来と同じです。これまでは自分たちが作っている物の価値を伝える場がなくて買いたたかれていたのだから、ここではその価値を精いっぱいアピールする必要があります。実際、売上数量の多い生産者は、商品説明や写真、商品名の付け方などで、何かしら『表現』にこだわっています。単に表現が達者なだけでなく、付加価値の一つであるホスピタリティを感じさせる人の商品が売れているのです」
これまで「表現」や「ホスピタリティ」など考えたこともなかった生産者にとっては大きな挑戦だ。ただ、「生産者が変わる一番の特効薬は、消費者の声を聞くこと」だと高橋さんは話す。
「収入の低さもさることながら、生産者は孤独なんです。こだわって物を作っても、誰が食べているかが分からないため、やりがいを感じることができない。しかし、『ポケットマルシェ』ではコメント欄を通じて消費者からお礼を言われたり、自分が発信する情報に反応があったりするので、それがやりがいになる。そんなかたちで、生産者をエンパワーメントできるプラットフォームであり続けたいと思っています」