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トップ > Cのキセキ Episode.12 「imagePROGRAF PRO-1000」 > P5
キヤノンが満を持してリリースした「A2」サイズに対応したインクジェットプリンター「imagePROGRAF PRO-1000」。
「PIXUS PRO LINE」と「imagePROGRAF」という、キヤノンが誇る二つのブランドの総力を結集した新しいモデルだ。
ライバルの牙城を切り崩すために、そこには多くの技術と、さまざまな思いが込められている。
こうした機能やパーツを組み込んでいくのがメカ部門だ。開発を担当した関野健は、課題は小型化だったと話す。
「いかにサイズを抑えるかはずっと課題でした。まず頭をひねったのは、インクタンクの位置です。高い生産性を実現するためにも、できるだけ大容量のタンクを搭載したいですから。『PIXUS PRO-1』は本体の両脇にタンクを配置しているのですが、A2サイズでそうすると、本体の幅がかなり広くなってしまう。それを避けるために考えた結果、『PIXUS』シリーズで給紙カセットがある部分に置くというアイデアが出てきました」
ほかにも、先述の永山が開発したセンサーを利用した機能や、空気の吸引力を使って印刷時の用紙の平面性を高める「エアーフィーディングシステム」と呼ばれる仕組みなど、「imagePROGRAF PRO-1000」には、生産性を高める機能が盛り込まれている。機能の足し算が続く中で、どのように小型化を実現したのだろうか。
「放っておくと開発メンバーで狭い空間の奪い合いになるのですが、解決に近道はなくて、高画質、高生産性、小型化というゴールを共有して、開発チームが一丸となってゼロから考える。『無理かな』と思ったこともなんとか実現していくには、それしかないと思います」
機能やパーツの場所を決めただけでは、プリンターはただの箱だ。それらを求める通りに動かすのがファームウエアだ。
「ファームウエア担当の作業は、機械に命を吹き込むようなものです。それぞれの機能やパーツに要求されるものを一つひとつ理解して、望んだ通りに動くようにプログラムをしていくわけです」
そう話すのは、ファームウエア開発を担当した藤長誠也だ。小手先の対策では「imagePROGRAF PRO-1000」に対する要求に応えることはできないと考え、ファームウエアの骨格部分から作り直すという方針で開発を進めたという。
「最高の写真画質プリンターと生産性を重視した大判プリンター。『imagePROGRAF PRO-1000』はその融合ともいえる新しい製品です。ここで得た知見は、将来的に今後のプリンター開発へ生かせます。一つの製品だけを見るのではなく、将来も見越して開発する。これは私たちの先輩から受け継いできた考え方でもあるのです」
開発メンバーから届く要求に応えるため、藤長はコミュニケーションのあり方を変えることにも力を入れたという。
「ファームウエアのセクションには、いろいろな部門から機能や性能の実現のために、『あれがしたい』『こうしてほしい』と声がかかります。時に要求がぶつかることもありますが、こうしたやりとりを繰り返すことで、製品に求められるゴールを共有して、開発チーム全体で同じ方向に進んでいけるのです」
“最新のプリンター開発”というと、デジタル技術を駆使して淡々と開発が進んでいく光景が浮かぶが、現場で働く技術者たちが頼りにしているのは、キヤノンがこれまで培ってきた技術だけではなく、自分自身の技術者としての経験と、同じゴールを目指すチームメンバー同士のコミュニケーションという人間的な要素だった。最先端の技術をさらに一歩進めるのは、人の中にあるプライドや熱意なのかもしれない。