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トップ > 特集 「欲しがらない若者たち」に「欲しがらせる」方法―ミレニアル世代のハートをつかめ! > P7
1980年代から2000年代初頭に生まれ、現在10代後半から30代となっている「ミレニアル世代」。
物質的に満たされていて「モノを欲しがらない」といわれるこの世代に対し、「モノを売る側」はどうアプローチしていけばいいのだろうか。
当事者たちの言葉や成功事例に学びながら、ミレニアル世代のハートをつかむ方法を探る!
物欲がないといわれるミレニアル世代にモノやサービスを売るにはどうすればいいのだろうか。世代論に関する著書を持ち、数多くの企業の経営コンサルティングを手掛けてきた百年コンサルティング代表の鈴木貴博さんに、ミレニアル世代へのアプローチのヒントを聞いた。
数年前、『「ワンピース世代」の反乱、「ガンダム世代」の憂鬱』という本を出版しました。その中で私は、1960年から69年に生まれて、10代でアニメ『機動戦士ガンダム』に影響を受けた人たちを「ガンダム世代」、78年から88年に生まれて、漫画・アニメ『ワンピース』に親しんだ人たちを「ワンピース世代」と名付け、それぞれの特徴を詳しく述べました。
人にはそれぞれ個性があり、ライフスタイルや嗜好性の多様化も進んでいますが、「世代」として括(くく)ることのできる価値観には根強いものがあって、行動や考え方の中にDNAのようにしっかり組み込まれています。マーケティングにおいて世代論が重要な切り口であるのはそのためです。
ミレニアル世代は、私がいうワンピース世代からその次の代に当たります。この世代の最大の特徴は、「物心がついた時から携帯電話があった」という点にあると私は考えています。自分だけが使える電話があって、常に友達とつながっている。そういう環境で10代を過ごすことで、彼・彼女らは「仲間とのコミュニケーションが何より大切」という価値観を強く持つようになりました。
その価値観から生まれるのが、「仲間内での承認欲求」です。自分が仲間だと思う人からリスペクトされたい、尊重されたい──。常に中心にあるのはその欲求です。
もちろん、それより上の世代にも承認欲求はあります。しかし、その世代が承認を求める対象は、会社などの「組織」やそれを取り囲む広範な「社会」でした。それに対して、ミレニアル世代の承認の対象は、身近にいる10人前後の「仲間」であり、SNSでつながっている100人から最大で1000人くらいの「友達」です。その仲間から友達までを含む範囲が「社会」であって、その外にいるのは「自分たちとは関係のない人たち」と見なす。それがミレニアル世代の価値観であると私は捉えています。
一方、お金に対するスタンスは、「年収300万円で満ち足りる世代」と表現することが可能です。やや極論をいえば、スマホ、コンビニ、ファミレス、ユニクロ。その4つがあれば生活が成り立つ。それで生活できるのであれば、年収が300万円でも800万円でもそれほど変わりはない。それがミレニアル世代の感覚です。
モノやサービスを売る立場から見れば、この世代にアピールするのは非常に難しいといえますが、支持されているサービスや商品はもちろんあります。例えば、フリーマーケットアプリの「メルカリ」の人気を支えているのは、モノを持ちたがらないミレニアル世代です。ヤフオクという圧倒的な競合があるにもかかわらずメルカリが成功を収めているのは、不要になった身の回りの品を手軽にすぐ売れるように、スマートフォンでの利用に徹底的にフォーカスし、サービスをシンプルにしているからだと考えられます。LINEスタンプなども同様ですが、スマートフォンというキラーツールと結び付いたサービスや商品に対しては、ミレニアル世代はお金を使うことを厭(いと)わないのです。
この世代にとって、スマートフォンは単なる通信するためだけの道具ではありません。承認欲求を満たすためになくてはならないツールなのです。例えば、センスがいいと感じたスタンプを購入し、仲間内で使って周りの反応を楽しむ。あるいは面白かった体験や自らの価値観でいいと感じたものを、写真に収めSNSで共有したり、自分なりのコメントを付けたりすることで仲間たちに影響を与える。それが彼・彼女らにとっての大きな喜びになるのです。「インフルエンサー(※)になりたい」という強い欲求。それを刺激することが、ミレニアル世代を捉えるカギといっていいでしょう。
従来の企業のブランディングテーマは、「完璧なブランドをいかにつくるか」でした。もちろん商品やサービスの質を上げ信頼を築くことは重要です。しかし完璧なだけのブランドに、ミレニアル世代が魅力を感じることはありません。世の中のさまざまなことに対してシャープな「つっこみ」を入れ、仲間に影響を与えたいと考えている彼・彼女らに刺さるのは、完璧を目指す過程を共有するための「隙」なのです。
あえて「つっこみどころ」をつくることで、ユーザーの承認欲求を刺激し、共にブランドを育てていく──。そんな戦略がミレニアル世代に対しては有効であるといえるのではないでしょうか。
※人々の消費行動に大きな影響を与える人たち
鈴木 貴博(すずき たかひろ)
百年コンサルティング株式会社 代表
1962年、愛知県生まれ。86年に東京大学工学部物理工学科卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社。その後、ネットイヤーグループの創業に取締役として参加する。 2003年に独立して百年コンサルティングを創業。雑誌、Webなどへの寄稿、連載多数。最新の著書は『仕事消滅 AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』(講談社)。