キングダム。それは累計発行部数が3800万部(2019年3月現在)に及ぶ、中国の春秋戦国時代(紀元前8世紀から前3世紀ごろ)を舞台にした歴史エンターテインメント・コミック(週刊ヤングジャンプ連載)。
「キングダム!? ああ、読んでいないんだよね……」
何度この言葉を口にしてきたことでしょうか。そのたび、数年前にSATC(Sex and the City)の話について行けなかったときと同じような「残念感」を味わっていたのですが、現在54巻まで発売されている同コミックを初めから読もう、とまでは思えなかったのです。
しかし、そんなちょっとした遅れを取り戻す絶好のチャンスがやってきました。
そう、それはキングダムの映画化。キングダムについて何も語れない状況を、2時間ちょっとで卒業できる機会がやってきたのです。
物語の舞台は紀元前の中国。群雄割拠の春秋戦国時代、秦(しん)国の少年・信(山﨑賢人)と漂(吉沢亮)は、いつか「天下の大将軍」として立身出世しようと日々剣術の修業に励んでいました。
ところがある時、王宮でクーデターが起こり、漂は戦いの中で致命傷を負ってしまいます。いまわの際の漂から託された地図をもとに信がたどり着いた先には、漂によく似た男が……。彼こそが王宮を追われた秦の若き王・嬴政(えいせい/吉沢亮)でした。
漂が嬴政の身代わりとして命を落としたことを知り激高する信でしたが、嬴政の志の高さに触れ、彼と共に王宮を奪還することを決意します。そして2人は、過酷な戦いの世界に身を投じていくのでした。
実際に鑑賞してみると、とにかく映画の勢いというべきものを感じます。佐藤信介監督が作り出す、スタイリッシュかつ迫力満点のアクションシーンは必見。また、各キャストが演じる登場人物にも魅力があり、あっさり「推しメンキャラ」まで生まれてしまいました。
原作コミックは「経営のヒントが得られ、人心掌握術が参考になる」といわれ、経営者の間でもブームとなっているようです。
例えば「今、一番売れてる、ビジネス書。」というキャッチコピーで表紙をビジネス書風にデザインした広告キャンペーンを展開していたり、「#キングダム経営論」というハッシュタグがSNSで話題になったりと、その人気ぶりがうかがわれます。
では、具体的にどのような点がビジネスの参考になるのでしょうか?
そんな視点から映画を鑑賞すると、どの組織でも役立つような「あるべきリーダー、チームの姿」を垣間見ることができました。
例えば、秦国の若き王であり後に始皇帝となる嬴政は約500年続いた争乱を、中華全土を統一することによってなくそうと考えています。彼のリーダーとしてのビジョンは常に明確で、一瞬もブレることがありません。
また、戦闘中も部下たちへの指示が的確で明瞭です。
攻めるべきか、守るべきかの判断も潔く、状況に応じて「今、何をすべきか」を声高く掲げ士気を高める姿も、困窮した状況などでチームが一致団結を目指す際の参考になります。上の立場の人間は絶対に揺らいでいてはいけないし、どんな時も堂々とした姿でいなければなりません。嬴政は、一貫してリーダーシップ抜群な人物として描かれています。
また、チーム論として本作を観ても、最強チームの作り方として参考にすることができます。
キングダムには真面目ひと筋タイプ、本能のままに動くタイプ、策略家、愛されるムードメーカー、リーダーへの忠実度100%のキャラ、頼れる兄貴キャラ、さらには、重大な任務の際に必要な他社からの助っ人に位置づけられるキャラクターまで、非常に多様な個性を持った人物が存在しています。
そして、その誰もがチームに必要とされていることがわかるシーンが作中、巧みに配されています。そのため、それぞれが当事者意識をもって行動し、強い結束力を持っていることにも納得できました。
本作で最も私の印象に残ったのは、主人公・信が夢を語るシーン。
奴隷出身の孤児・信は「天下の大将軍になる」という夢を、こちらが恥ずかしくなるくらい何度も発言します。
昨今、夢があると口にする人や情熱を持った人物を冷ややかに見る傾向が強く、「アツいやつ=かっこ悪い」とされるような風潮が広まっています。でも、目標を口にすることで周りを巻き込むことができること、そしてなにより自分を鼓舞することができることを、私はこの映画を観て痛感しました。
私自身、26歳の時に当時勤めていた広告代理店を退職し、「映画ソムリエになる」と志しました。そして、この夢をどんな場所でも恥ずかしがらずに公言し続けました。その結果、幸運にも恵まれて映画に携わる仕事ができるようになったのです。
だからこそ、夢や想いは、はっきりと口に出して表明したほうがいい。このことを、主人公・信を通して、再び思い出すことができたのです。
人気コミックの実写化は、内容を詰め込み過ぎて作品本来の良さが薄まっている場合が多いという印象があります。しかし本作は脚本に原作者が協力し、この映画のために原作のストーリーにアレンジを施したということです。
完成した台本には原作者をはじめ、携わったスタッフが大きな手応えを感じたとのこと。非常に良くまとまった、テンポの良いエンターテインメント作品に仕上がっています。私のように原作を読んでいない観客も、原作ファンも、きっと満足できることでしょう。
ちなみに先日、日経トレンディでも「キングダム式仕事術」が特集されていました。こちらはコミックにスポットライトがあてられ、チーム論やマネジメント論についての分析が掲載されていました。やはり、キングダムは漫画だと侮れないほどの、学びの宝庫であることがうかがえます。
時代も国も違えど、武将たちも働く私たちも、戦っていることに変わりはありません。
彼らから、働き方のヒントを見つけてみるのもよいかもしれませんね。