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映画ソムリエ 東 紗友美の学び舎映画館 第11回「エジソンズ・ゲーム」篇 天才発明家エジソンに学ぶ人生の勝算映画ソムリエ 東 紗友美の学び舎映画館 第11回「エジソンズ・ゲーム」篇 天才発明家エジソンに学ぶ人生の勝算

私たちの生活に欠かせない照明や家電製品、パソコン。先々にさらなる発展を期待される人工知能…。これらはすべて人類に必要不可欠なエネルギーである「電気」があってこそです。
地上の人類に恩恵を与え、生活を豊かにした電気を送るための電力事業の黎明期には、天才発明家エジソンとカリスマ実業家ウェスティングハウスとの間での人生をかけた「電流戦争」がありました。今回は電力事業の主導権をめぐって争うビジネスバトルの原点とも言えるドラマのお話です。

見出しアイコン電力事業をめぐる
熾烈な戦いを描く

エジソンズ・ゲーム 劇中写真
エジソンズ・ゲーム 劇中写真

ときは19世紀、すでに天才発明家として名が知れ渡り、白熱電球を発明したエジソン(ベネディクト・カンバーバッチ)は、大統領からの仕事も平然と断る傲慢な男でした。 アメリカにおける電力事業の黎明期、当初はエジソンの開発した「直流方式(DC)」で都市の中心部に電力供給がなされて、徐々に浸透されつつありました。しかし、そこに実業家であるウェスティングハウス(マイケル・シャノン)が、「交流方式(AC)」の電力供給を成功させたというニュースが飛び込んできます。
そんなウェスティングハウスのもとには、かつてエジソンのもとで働いていたエジソンにとって因縁の関係である天才科学者ニコラ・テスラ(ニコラス・ホルト)の存在がありました。彼はウェスティングハウスから資金援助を受けていたのです。
この国の主流となる電力事業は、「直流」か、「交流」か、2つに1つ…。
エジソンは直流電流の優位性を広めるため、人を感電死させてしまう可能性のある交流方式を「危険だ」と猛烈に批判して、ネガティブキャンペーンで世論を誘導していきます。アメリカ初のこの電力戦争は訴訟や駆け引き、裏工作が横行する世紀のビジネスバトルが展開されていくのでした。

トーマス・アルバ・エジソンは、生涯およそ1,300を越える発明と技術革命を起こした近代アメリカの発明家です。ショートスリーパーで、1日平均3時間しか睡眠をとらず、24時間365日ほぼ仕事をしていたといいます。
そんなストイックすぎる彼の噂は正直なところ良い噂ばかりではありません。「傲慢な人間」「やっかいな人物」「意固地な人物」「扱いにくい人物」「自尊心が高すぎる」など、悪評も数多くありました。要するに、性格は悪いが才能にあふれる天才といったところでしょうか。
エジソン役を務めるのは、ドラマ「SHERLOCK/シャーロック」や「ドクター・ストレンジ」(2016)などで主演を務め、個性派俳優としての地位を確立したベネディクト・カンバーバッチ。これまでのエジソンのイメージを覆し、勝利のために手段を選ばないダークヒーローとして演じ切ります。

見出しアイコン聖人ではなかった
エジソンの実像

エジソンズ・ゲーム 劇中写真
エジソンズ・ゲーム 劇中写真

今回、描かれた電流戦争では、死刑用に使用される人類初の電気椅子に、「交流」のマイナスイメージを定着させるため交流電流の電気椅子を提案するなど、ウェスティングハウスを打ち負かすためにとにかく容赦がないシーンが登場します。
「直流」を勝たせるという自分の信念のために、「ここまでやるか?」の狂気の行動の連続…。
自身の本業である実験や発明以外にも、ときに卑劣になり、自分の意見を通すため全精力をつぎ込んでいるその姿に彼の遺したあの言葉が思い浮かびます。
「天才とは、1%のひらめきと99%の努力である」

天才というイメージよりも、焦りや焦燥感に駆られる今回の姿は、どこまでも人間らしく興味深い人物像でした。いわゆる良い人ではないかもしれないけれど、世紀の発明家の最も人間らしい側面に触れることができるはずです。

人生は、点ではなく線。世論がウェスティングハウス側の提唱する交流発電に完全に傾いているときさえも、勝敗がわかるギリギリまで一向に自分の信じた選択を曲げない。その心の持ち方こそ後の成功の秘訣に思えました。

エジソンたちのバトルが繰り広げられたアメリカには「good loser(グッド・ルーザー)」の言葉があります。すべてを懸けて真正面から闘い、それでもだめだったらその結果に固執せず、潔さよく負けを認める——。
どこか武士道にも通じるこの精神は「敗北や後悔の念に溺れることなく、次に向かうための成長の機会とする」とこの映画から受け取ることができるでしょう。

エジソンは電流戦争の後に、電気自動車や音の出る映写機「キネトフォン」を発明し、「映画の父」の1人と呼ばれるようになるなど、84歳でこの世を去るまで精力的に活動しつづけました。

見出しアイコン技術革命を起こした人物
の共通点

エジソンズ・ゲーム 劇中写真
エジソンズ・ゲーム 劇中写真

そして、この映画のもう1つのみどころといえば、ニコラ・テスラです。
斬新な電気自動車を製造する時代の寵児、テスラ社のイーロン・マスクCEOが最も尊敬する人物として名前を挙げる悲劇の天才。
ニコラ・テスラは端役も含め、たびたび映画に登場します。しかし、その名を知らぬものはいないエジソンに対し、数多くの技術革命を起こしたにも関わらず、悲しい最期を遂げ、一般的な知名度もそれほど高くありません。その彼がスクリーンで、キーパーソンとして蘇るのも本作の見所でしょう。テスラ役は「女王陛下のお気に入り」(2018)や「X-MEN」シリーズのニコラス・ホルトが務め、野心あふれる若々しい演技が光ります。

いつの時代にも人類におおいなる革命を起こす人間たちがいます。インターネットの登場でIT時代となった今日で言えば、グーグルのラリー・ペイジ、アップルのスティーブ・ジョブズや、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグやアマゾンのジェフ・ベゾスらといったGAFAの存在が思い浮かびます。ライフスタイルを変えるほどのイノベーションを起こした彼らの共通点は、独創性はもちろん、過剰なまでに強い信念と実行力と言えるでしょう。

ビジネスバトルとはいつの時代も熾烈なものですが、エジソンのように一度決めたら徹底して曲げない強い信念と実行力は、プレゼンなどで競合企業との争いに立ち向かうビジネスマンのモチベーション維持の参考となるかもしれません。

この電流バトルに命を懸けたすべての科学者たちと関わった人々に、拍手を…。

【2020年2月作成】
映画情報アイコン
エジソンズ・ゲーム
配給:KADOKAWA 
©2019 Lantern Entertainment LLC. All Rights Reserved.
2020年4月3日(金)全国ロードショー
2019年/アメリカ
監督:アルフォンソ・ゴメス=レホン(『ぼくとアールと彼女のさよなら』)
出演:ベネディクト・カンバーバッチ、
マイケル・シャノン、トム・ホランド、
ニコラス・ホルトほか
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東 紗友美(ひがし さゆみ)
映画ソムリエ
成城大学文芸学部卒業。4年間在籍した広告代理店を退職し、映画の道で活動していくことを決意。その後、映画ソムリエとしてフリーで活動。映画館に通う人を1人でも多く増やし、映画業界を盛り上げるべく、映画イベントのMCや映画コラムの執筆、映画系の番組への出演など幅広く活躍している。
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