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ちょっとおいしいビジネスの話 肉と日本酒 谷中店 ちょっとおいしいビジネスの話 肉と日本酒 谷中店

肉と日本酒 谷中店

実にシンプルに「肉」と「日本酒」を中心とした、極めてリーズナブルかつ、オイシイ焼き肉店がある。その名も「肉と日本酒」。
価格はひとりたった6,500円(税込)。この価格にはお酒を含む飲み放題料金も含まれ、自分で盛り付ける食べ放題の白米は、厨房カウンターまで持って行くと、カレーや牛丼のタネといった“賄い飯”用のお肉まで載せてくれる。

肉の質は極めて高い。A5ランクの和牛から切り出した肉には希少部位も含まれ、塩焼き、タレ焼きなどがバランスよく愉(たの)しめ、最後には誰もが「お腹いっぱい、大満足」で帰れるお店である。

焼肉の味は素材とカットで決まる。
格安とも言えるこの店が旨(うま)い理由は、銀座、豊洲などにある高級鉄板焼き「超熟成黒毛和牛鉄板焼 宮地」など、多くの肉料理店を展開するダイゴインターナショナルが仕入れる一頭買いの素材を、多様な業態で無駄なく使うことができるからだ。もちろん日本酒も素晴らしい銘柄が多数。

半年先までの予約が満杯と言われる大人気店となるのも無理からぬことだ。
しかし、この店の本当の魅力・面白さは、実はそのビジネスモデルにある。

店舗外観01

高級店から業態転換、
セルフサービスを徹底して大成功

店内の日本酒・牛丼

実はこのお店、以前は「黒毛和牛焼肉 醍醐」という名前の、ちょっとイカした高級焼き肉店だった。テーブル、半個室、奥座敷など、席数は合わせて43あるが、業態変更前は収益性が極めて低く、月の売り上げは200万円前後だったという。

焼肉店は、肉をテーブルまで持って行けば顧客自身が焼いて食べてくれるが、高級焼肉店ともなればカップルがゆったりと4席のボックスを使ったり、あるいは接待の場で接客係が肉の焼き具合や焼き方を管理しなければならない。加えて高級店は顧客の滞在時間が長く、なおさらに高価格に振らざるを得ない。

当時の醍醐は顧客単価1万円以上の高級店だったが、そうするとその金額に見合う質の高い従業員を、予約状況に応じて割り当てねばならない。決して効率の良い業態とは言えないのが実情だ。
そんな醍醐を経営する尹伸文さんが、吉祥寺にある人気肉料理店「肉山」を経営する光山英明さんとコラボレーションで醍醐をリニューアルしたのが「肉と日本酒」だ。

前述したように、焼肉という料理は基本的に“セルフサービス”。
そこで、セルフサービスならではの特徴、すなわち、徹底的に顧客主義のコストパフォーマンスを売り物にした店に生まれ変わらせることにしたのだ。
高級鉄板焼き店と同じ素材から焼肉向けの部位を切り出して提供する自慢の肉質は落とさない。その代わり、あらゆる点で効率化を図ることで、飲み放題付きで6,500円(税込)という価格を実現した。
ピーク時は毎月の売り上げが800万円近くにのぼることもあり、かつての売り上げだった200万円を営業利益として上げることもある。

顧客にとっては素晴らしくコストパフォーマンスが良いお店。お店にとってみれば、手離れのいい効率的な運営で利益もしっかり出るため、高い品質の肉を持続的に提供できる。まさにWin-Winの関係を築くことに成功したのだが、その効率化の手法がまた“ぶっ飛んでいる”のだ。

店内の日本酒・牛丼

質の高い日本酒、
高い満席率の理由

A5ランク和牛

この店のもっとも大きな特徴は、「予約できるのは20人以上のグループ」「1日に1グループしか予約を受け付けない」という2つのルールだ。加えて「飲むお酒やソフトドリンクは自分で冷蔵庫から出す」「ビールは瓶ビールのみ」「ごはんとスープは自分で盛る」などの、食事をするうえでのルールもある。

このルールを設定することで、店側は用意する肉の量をあらかじめ把握し、さらには配置する店員がどの程度必要なのかも把握できる。1グループのみの受付ならば直前の人数変動も抑えることができ、しかも顧客との間に1対1の密な関係を築ける。

“セルフサービス”が基本コンセプトの店であることが顧客の間に根付いているため、付け合わせとお肉の盛り合わせをサーブすれば、あとは時間や全体の管理をするだけでお店が回ってくれる。ちなみにお酒やソフトドリンクを飲むためのグラスも、ひとりあたり2つが提供されるだけで、あとは自分で管理する必要がある。

完全セルフサービスで、冷蔵庫に入っている仕込んだお肉を自分で取りだして焼いて食べるという店は、以前からいくつか存在している。ただ、1グループだけしか受け付けないという店は異例だ。
20名以上でしか予約できないこの店だが、結果的には大ヒットとなったこともあって、多くのグループが35名以上で利用しているという。筆者も何度か幹事をしたことがあるが、いずれも希望者が多くてほぼ満席である43名、めいっぱいの人が集まった。
店側としては、予約者ひとりとだけコミュニケーションすればよく、この点でも効率がいい。さらに一工夫しているのが、扱う日本酒の銘柄管理だ。

このお店には日本酒用の冷蔵庫が4つ用意されており、それぞれ異なる酒屋に「何を置くか」を管理させている。酒屋に支払う1本あたりの平均コストはあらかじめ店が設定するが、そのバジェットの範囲内で「いかにコストパフォーマンスの良いお酒を並べるか」を酒屋に任せ、4つのお店に競争させているのである。

まさに発想の転換が生んだ、顧客にとっても、お店にとっても“おいしいビジネス”と言えるだろう。

【2019年1月作成】
A5ランク和牛
店舗外観02

肉と日本酒

予約・問い合わせ 080-4474-5533
(完全予約制)
20名以上の完全貸し切りのみ(最大45名)
予約は全日、10時~18時で受け付け
東京都台東区谷中3-1-5 ミハマビル 1F

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