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オンライン予約・顧客管理データが物語る「本当においしいお店」 オンライン予約・顧客管理データが物語る「本当においしいお店」

おいしいお店を探したいと思うとき、ユーザー投稿型のグルメ情報サイトを利用している読者は多いことだろう。日本に限らずグルメ情報サイトは貴重なお店探しデータとして活用されているが、実はこうしたグルメサイトの点数で高得点の店が、必ずしも「繁盛しているお店ではない」ということが明らかになってきた。

オンライン予約サービスを提供するトレタが、予約情報から割り出す繁盛の度合い(完売率やリピート率などの総合的評価)を、グルメ情報サイトの点数と比較したところ、ほとんど点数との相関がないことがわかったという。

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「ぐるなび」低迷の要因は
送客力の低下

お客様の行列

では、繁盛指数ともっとも関連性が高い要素はなんだろう? 実はもっとも相関が高かったのは「顧客単価」。顧客単価の高い店は高い数字を得る傾向が強く、一方で安価なお店は繁盛していても高い点数を得にくい。
繁盛の度合いを「顧客の満足」と捉えるならば、グルメ情報サイトの点数はあまりあてにならないことを示しているだろう。

それは長らくグルメ情報サイトでトップクラスの大手であり続けた「ぐるなび」が昨年、最終利益8割減という衝撃的な結果を発表したことからもわかる。
食べログなどのライバルは、まだまだ力が…と考えるかもしれないが、グルメ情報サイトトップだった「ぐるなび」の低迷の要因は「送客力の低下」にある。前述の「点数と繁盛の相関の低さ」も同時に考えるなら、インターネット黎明期にはじまったグルメ情報サイトの時代が終わり、新しい時代が幕を開けているといえる。早晩、常識はひっくり返るということかもしれない。

お客様の行列

繁盛店を作るのは
「情報サイト」ではなく常連客

さて、飲食店経営者でないならば、繁盛店を作るためのノウハウなど多くの人にとって無関係のものだ。しかし「本当の繁盛店」を知ることは、他人の付けた(どのように正規化されているかもわからない)情報を参考にするよりも、ずっとよいお店との出会いをもたらしてくれる。
そしてもっと視点を拡げてみると、それは「安定した業績を挙げる方法」としても、幅広く普遍的な気付きにつながるものだ。

順番にトレタの情報分析から見えてくる「繁盛のひみつ」について話を進めよう。表面上、繁盛している飲食店は、大きく2つの種類にわけられる。

ひとつは一見の顧客が多い店。一見客ばかりなのに繁盛している店の多くは、外的環境に恵まれて繁盛しているため、混雑の度合いは必ずしも店舗の魅力(言い換えるなら業態やサービスの質)を反映してはいない。

極端な例ではあるが、常に人が流れている繁華街近くのカフェは、どこに行っても人で溢れており、正直「どの店でもいい」から入りたいと思うだろう。
これが繁華街ならば、それでも普遍性はある。普遍性があれば事業としては続けられる形を作ることは可能だ。
ところが完全に外的要因に頼った事業をしていると、たとえば駅の出入り口の場所が変化したり、あるいは他の人気店が引っ越すなど、事業環境の影響を受けやすく経営は安定しにくい。

一方、同じように満席率が高い繁盛店でも、リピーターが多いお店はまったく意味合いが異なる。リピーターが多い店は事業環境の変化に強い。なぜなら、地域性とも関連が深い飲食店に、同じくリピーターとなる可能性の高い友人を連れてくるからだ。
一時期、クーポン券発行ビジネスが流行したことがあった。しかし、いくらクーポンで新規顧客を集めても、割引などのサービスやクーポン発行会社へのインセンティブなど、顧客獲得費用ばかりがかさみ、顧客が定着することはなかった。

一方、リピーターが繁盛店を作ることはデータがキッチリと証明している。
トレタに集まった約1万店舗、4000万件の予約データを分析すると、坪あたりの月商とリピート率に強い相関関係があることがわかる。図1は、あるお店のリアルなデータだが、リピーターが増えることで、面積あたりの売上げが上昇している。

グラフ
グラフ

さらに別のデータを観てみよう。図2は模式図でリアルなデータではないが、前述のデータを分析した結果、ある程度見えてきている典型的な繁盛店が生まれる「パターン」である。
外的要因やプロモーションに依存する「新規顧客」に対して、どこまでリピーター層を積み上げられるかが、「いかに継続的に来店者数を増やすか?」に繋がっている。

グルメ情報サイトは、このうち新規顧客に対してはある程度の効果はあるものの、リピーターを増やす効果はない。
その上、モバイルの時代になって詳細なお店データの共有よりも、ビジュアル面での興味の伝搬やSNSでの口コミの拡がりの方が、新規顧客の行動に影響を与えるようになってきた。

象徴的なのは、インスタグラムなどを通じて新しい店を知ったり、あるいは検索することで行くべき店を決める人が増えていること。情報サイトやSNSでの口コミは重要だが、時代によって情報の伝わり方は移ろうものだ。

「パレートの法則」のその先

接客

新規顧客を獲得する努力は必要だが、むしろ力を入れるべきは経営を安定させる常連客作りだ。実際、トレタのデータでも売上げの8割を2割の常連客が生み出しているというデータが出ているという。まさに「パレートの法則」である。

すなわち、パレートの法則に基づく経営を行えば、安定して売上げが出る繁盛店を作れるということだ(もちろん、コンテンツである料理に魅力がなければ意味はないが)。

先ほどの図2は過去に来店回数ごとに、顧客が再訪する確率を示したものだが、この図からわかるのは、2〜3回目の来訪時に「どんな体験をしたか」によって定着率が変わるということだ。何度も足しげく通うのは、顧客が特別なサービスを受けていると感じるようになっていくからだ。

たとえば筆者自身、何度も通うお店では、名前や顔を覚えられ、おすすめのメニューを気さくに教えてもらい、少しだけ特別な情報(実は少量だけれど、こんな素材がありまして…など)が得られる。あるいは、予約を入れていたら「この素材がお好きですよね」と用意をしてくれている。ちょっと気が効いたことがある上、味も気に入っているから再訪しようと考えるのだ。
近年の日本の外食は、味の面ではどの店も水準が高い。おいしいだけで再訪するのではなく、居心地がよいからこそ、そこに行きたくなるのだ。

パレートの法則は単なる原則論だが、収益をもたらす2割の常連客に、どのように居心地のよさを感じてもらうか。それは、まさに人間関係にある。通り一辺倒の機械的なダイレクトメールが売上げに貢献しないのと同じように、人が顧客を観てコミュニケーションすることが、大切な2割の常連客の気持ちを上げていく。
これは多くの事業における普遍的な考え方とも共通しているが、一方で当たり前すぎて見落としがちな点といえるだろう。

さて、タイトルの「本当においしいお店」とは、心地よいお店のことだ。
すばらしい味の飲食店はたくさんある。しかし、我々が求めているのは「食べ物」だけではなく、食事というエンターテインメント。食事に関わる体験すべてが「おいしさ」であると考えるなら、お店選びの基準も変わってくるはずだ。
もう、価格への相関性しか見えない「あいまいな数字」に、飲食店も、顧客もこだわる時代ではない。

【2020年1月作成】
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