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真の日本酒愛好家が作った日本酒テーマパーク 真の日本酒愛好家が作った日本酒テーマパーク

店舗外観

「好きこそものの上手なれ」とはよく言われる言葉だが、仕事を楽しんでいる人ほど成果を挙げやすいことは誰もが感じているのではないだろうか。

少々大げさに感じるかもしれないが、日本を代表する、あるいは世界的な企業の創業者たちを見ても同様のことが言える。先日、会長を退任された元ソニーの平井一夫氏に話をうかがったときも、ソニー社長時代に「自分が本当にほしい」「カッコいいと思うもの」を、しっかりと見据えて話をしていた。

もちろん、すべてのひとが「大好きなこと」だけに取り組めるわけではない。しかし「酒 秀治郎」という店のバックストーリーは、まさに「大好き」という気持ちをどう顧客価値に転換し、事業として成立させるかという壮大な実験を成功させた例と言えるだろう。

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店舗外観

著名な日本酒愛好家と
飲食店ヒットメーカーがタッグ

直野秀治郎さんと日本酒

恵比寿と代官山のちょうど間くらい、静かな場所に佇む隠れ家のような店「酒 秀治郎」は、その店の名と同じ日本酒愛好家・直野秀治郎さんがプロデュースしている店だ。プロデュースは担当しているが経営者ではない。

この店の経営者はグラニースミスやテンフィンガーズバーガー、ビストロバーンヤード、FUNGOなどを展開する関俊一郎氏。ヒット飲食店を連発する関氏が、直野さんの「大好きな日本酒を僕がもっともおいしいと思う料理と提供方法で楽しめる店を作りたい」という情熱を受け止め、では「店をひとつ作ってしまおう!」を始めて生まれたのが、この店だ。

実は直野さんは飲食店経験ゼロで、本来の職業はウェブ制作会社の経営者である。しかし、日本酒の試飲会や蔵元訪問など、愛好家が集まるイベントには欠かさず顔を出す熱心さと、特徴的な姿により業界で知らないものはいない、まるで日本酒業界のマスコットのような存在だ。2016年に「誰よりも日本酒を愛している男子」を決めるコンテスト「Mr.SAKE」の第1回大会が開催された際は、準グランプリを獲得した。

つまり「トップクラスの日本酒愛好家による、日本酒愛好家のための、日本酒を楽しむお店」というわけだ。

直野秀治郎さんと日本酒

6種類の管理温度で
客に合わせた日本酒を提供

スタンド看板

もっとも料理と日本酒を楽しむために、一切の知識は必要ない。
同じく日本酒好きが集まる接客担当は、客との会話の中で好みや飲める量を推し量りながら、一律のパターンに従わずにお酒を提供してくれる。日本酒の管理温度も「燗酒」で2種類、冷酒3種類、それに常温を加えた6種類の温度で提供される。「この日本酒とこの料理に合わせるならば、この温度で」と、すべて秀治郎さんが合わせこんでいく。

その情熱を受け止めた接客担当は、そうした秀治郎さんの想いを共有し、次々に個性的な日本酒を注いでいく。同じ料理でも、グループごとの個性で異なる日本酒が提供されることも多い。

こうした秀治郎さんの熱量に引き寄せられる日本酒の作り手も多く、蔵元からわざわざこのお店を訪れる人も多い。筆者が訪問した際には、香川県の蔵元・川鶴の関係者が居合わせていた。

スタンド看板

主役である日本酒を
引き立てる料理も出色

もちろん日本酒の選び方に対するこだわりも熱い。例えば「雄町米」発祥の地、岡山県で農薬や化学肥料に頼らない特別栽培に取り組む「まめ農園」が栽培するお米を、あえて80%精米にすることで複雑な味わいを狙ったという「純米雄町80」。この日本酒は、口に入れた瞬間はふくよかで深い味わいながら、スッと切れ良くきれいに口の中に消えていく。やや脂のある食材ともバランスが良く、しかし透明感のある後味を残す絶妙のバランスだ。

精米歩合を80%に抑えることで個性を出しているわけだが、こうしたお酒のセレクトはなかなか仕事としてこなしていてはできないものだろう。

お料理も素材の味を活かしつつ、多様な日本酒を楽しむための季節の日本料理ばかり。燻製や苦味、旨味などの要素をバランス良く取り入れ、食感と味わいの両方をしっかりと整えて提供することで、主役である日本酒を引き立てる。

直野さん一人でも、関氏だけでも、この店は生まれなかっただろう。「大好き」という熱量を飲食店のヒットメーカーが引き出したことで、生まれた個性的な店だといえる。そこには日本酒が大好きな人だけが集まればいいという割り切りもあるのだろう。駅からやや離れたロケーションもあって、お酒代込の税込み8500円程で楽しめるのも魅力となっている。

【2019年11月作成】
店舗外観

酒 秀治郎(さけ ひでじろう)

東京都渋谷区恵比寿西2-10-8 1F
http://sake-hidejiro.com

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