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コロナインパクトが変える飲食店業態 今後の再生を見据えた動向 コロナインパクトが変える飲食店業態 今後の再生を見据えた動向

ご存知の通り、新型コロナウイルスの感染拡大は飲食業界に大きな影響を及ぼし続け、収束時期はいまだに見えない。飲食店向けの顧客・予約台帳システム「トレタ」のデータによると、回復傾向にあった飲食店予約は、7月に入っての感染拡大報道から再び減少に転じている。

例えば最も落ち込みが激しい地区である東京都千代田区の場合、緊急事態宣言後に予約件数が前年比2%台にまで落ち込んでいたものの、6月最終週には約40%程度にまで回復。ところが7月に入ると再び35%前後まで落ち込んだ。新宿や池袋など繁華街の落ち込みも大きく、ウィズ・コロナの時代に適応しなければ、生き残れないことが改めて確認された状況だ。

前回のコラムでは、スイーツなどの「持ち帰り業態」が住宅地などで売り上げを伸ばしている例を紹介したが、店舗での営業が難しい状態が長期化する中で、どのようなスタイルが伸びるのか、改良しても伸びにくいのか、おおよその傾向が見えてきた。

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大きすぎるデリバリーサービス
のコスト

デリバリーサービス

ご存知の通り、コロナ禍の中で食品デリバリーサービスの利用者が急伸している。来店者数増加が期待できない上、店舗内の席数も間引きせざるを得ないウィズ・コロナの時代にあって、デリバリーでの売り上げは貴重だ。

しかし、デリバリーサービスの基本的なビジネスモデルは「店舗営業が成立している」か、「もともとデリバリーや持ち帰りを意識してイートインスペースや接客にコストをかけていない」業態が前提となっている。

デリバリーサービス大手の事業者は「Uber Eats」と「出前館」だが、飲食店が支払うコミッションは、料理の価格に対して35%(Uber Eats)から40%(出前館)とかなり大きな負担だ。

これでもサービスとして成立していたのは、そもそも飲食店として店舗営業が成立していることを前提としているためだ。デリバリーサービス事業者が顧客から直接受注し、お店で出している料理をピックアップして届けるのであれば、店舗や接客担当のコスト負担がない。

デリバリーサービス事業者は、負担軽減分のコストを取り、飲食店は注文数増や商圏拡大による収益の安定化を図ることができる。店舗営業が成立しているのであれば、合理的なビジネスモデルとは言えるだろうが、そうならないのはウィズ・コロナでは店舗営業が成立しにくいためだ。

来店者が大幅に減少するということは、「来店者あたりの固定費」が大幅に上昇することを意味している。デリバリー比重が大きくなると、店舗を維持する固定費を売り上げから捻出することが難しくなってくる。

そこで、デリバリー向けには店舗向けとは異なる価格設定が行われていることが多い。

デリバリーサービスへの手数料支払いを考慮し、あらかじめ高い価格を設定するか、あるいは品数や量を減らすことでコストを削減するといった工夫を行わなければ、事業継続が難しい。

デリバリーサービス

本来の価値とは何かを
見直した上での業態変更

小規模店舗

デリバリーやテイクアウトでは、店舗の内装やスタッフの接客、食事を提供する際のプレゼンテーションと言った価値が失われる。加えて飲食のうちの「飲」はデリバリーやテイクアウトでは、そもそもの売り上げを立てることが難しい。

なぜならばグラスワインや日本酒一合といった形での飲み物の提供が難しいからだ。店舗であれば、コースで提供するお皿に合わせて適したお酒を提供できるが、デリバリーではグラスでの提供ができない。さらに細かく掘り下げるならば、デリバリー用の容器で盛り付けも含めた、その料理人ならではのステージ感を演出することも困難だ。

それでも最上位クラスの店舗であれば、席数も少なく顧客単価が高いため、少人数の店舗営業とテイクアウトで商売を成立させることは可能かもしれない。しかし、そうした考え方を突き通せるお店はごく一部だ。

そこで「自分たちの店舗価値とは何か」を見つめ直し、またコロナの影響が長期にわたることを考慮して、あえて業態を変更する動きが出ている。

六本木で豚しゃぶの人気店として営業を続けてきた「豚組しゃぶ庵」は、凝った内装を施して人気を集めてきた店舗を閉め、通販業態へと形を変えていくことを発表した。この店を運営するグレイスは、比較的小規模、少人数での食事が中心のとんかつ店を維持しつつ、大人数での利用が多い豚しゃぶしゃぶ店を閉鎖。

一方で、とんかつが職人の技を必要とするのに対し、しゃぶしゃぶは消費者自身が最終的な調理を行うスタイルであることに着目し、質の良い豚肉の調達やおいしい食べ方、タレなどに価値を見出しつつ通信販売で、それまで扱ってきた高品質の豚肉流通にフォーカスした業態変更を行う。

同時にウィズ・コロナでも成立する小規模店舗を将来的に設置し、そこで新しいメニューの開発を「豚組しゃぶ庵」ファンとともに行い、新しい豚しゃぶメニューを常に開発していくテストキッチンのプランを用意。

その成果を通販商品に反映していく新しいビジネスモデルの開発を始める。豚しゃぶというお店の業態から、店舗が提供する接客や雰囲気といった価値を差し引いた時、どのような価値が残るかを精査した上での決断だ。六本木の店舗は撤退する。

小規模店舗

コロナの影響を受けにくい
隠れ家系店舗

隠れ家系店舗

一方で「コロナの影響は営業自粛以外、ほとんど受けていない」という飲食店もある。

普段から店舗のプロモーションを行わず、固定客とクチコミで席が埋まってきた飲食店だ。もちろん、席数の間引きや感染対策などでのロスはある。しかし、最高の食材を最高の環境と業で食べさせるハイエンドの飲食店は、満席率を下げつつもいまだに営業を安定して継続できる状況にある。

ここでは具体的な店名を挙げることはできないが、これまでに取材してきた飲食店でも、顧客単価で2万円を超える高級店は安定しているようだ。とりわけ、一般的な連絡手法では予約できない電話番号非公開の店舗や、公開されていても電話がつながらず、ウェブでの予約競争に勝たねば食べられないお店は、コロナ下でも安定した売り上げを確保している。

限られた席数とした上で、目の届く範囲で料理人が一人ひとりに腕を振るう。そうした業態ではベストとは言えないものの営業を続けられる状況にあると聞く。料理店の価値に向き合ってきたからこそ得られた結果と言えるかもしれない。

ただし例外はある。それが銀座に代表される企業顧客に支えられてきた地域だ。

6月も後半になると、東京・銀座の街並みにもそれなりの人手が見られるようになっていたが、それも太陽の光が少しでも注いでいる時間帯のみ。暗くなると人手は減っていき、街の活気は失われていた。

本連載の第2回で紹介した銀座魚勝は、銀座4丁目の店舗を閉鎖。その代わりに銀座6丁目のビルの地下に稲荷寿司専門の持ち帰り店舗を構え、同じビルの上階に住所・電話番号非公開の料理店を構える形に業態変更した。

店主の妻でもある女将は「銀座という街全体が、銀座周辺の大手企業に支えられていた。大手企業がテレワークになり、出勤している場合でも会食禁止となっているため、銀座全体の店舗を埋める顧客が地域にいない」と嘆く。

しかし損益分岐点を下げた上で持ち帰り店を併設することで、完全撤退ではなくコロナの時代を生き抜く選択をした。

隠れ家系店舗

アフターコロナ時代の
再生に向けて

このように厳しい事業環境は長引きそうだが、一方でアフターコロナの時代になれば、世界で最もミシュランの星を持つレストランが多いグルメ都市・東京は再生への道を歩むだろう。食はビジネスである以前に、その根本には文化としての側面があるからだ。

アフターコロナに向けて、あくまでも従来のスタイルを貫きたい店もあるだろう。ファンの多いレストランであれば、それでも事業を継続できるかもしれない。しかし一般論で言えば、一度は撤退し、復活時のために力を蓄えられる工夫も必要だろう。

まずは店舗という価値から一旦離れて、将来、再び「おいしさ」と「おいしさがもたらす感動」を伝えるために、仮の業態を見つけることが最善手ではないだろうか。重くのしかかる固定費を可能な限り削減し、コアの価値にフォーカスするという考え方は、飲食店に限らずあらゆる業態における鉄則だ。

豚組しゃぶ庵のように、一旦は撤退をした上で、店舗を支持するファンとともに、アフターコロナを見据えた店づくりやメニューづくりに取り組むという方法も一つの解だ。ただ、もちろん店舗や業態ごとに異なる答えがあるだろう。

それでも一つ、明らかに言えるのは顧客の動向や売り上げに対して漫然と耐え忍ぶばかりではなく、ニューノーマル(新しい常態)を見通して、顔をあげ前を向いて変化していくことが求められている。

【2020年7月作成】
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