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テクノロジーが急速な発展をもたらすフード産業 テクノロジーが急速な発展をもたらすフード産業

格之進肉学校での比較試食会

2017年、Impossible Foodsというベンチャー企業のつくった代替肉を試食したときの衝撃は、今でも忘れることはできない。スライダーと呼ばれるいわゆるピンチョス、小さなおつまみ程度のミニバーガーを試食したが、それが代替肉だとは全くわからなかった。
原材料は大豆を中心とした植物。100%植物由来でつくる代替肉は、獣臭が一切しないため、スッキリと旨味成分だけが感じられて、よりおいしいと感じたほどだ。
その後、同社の原材料はさまざまなチェーン店に供給されるようになり、全米の各種ハンバーガーチェーン店、あるいはホテルのダイナーのメニューオプション(バーガーを頼む際にオプションで選べる)などで提供され、あっという間にユニコーン企業となっていった。
2020年1月の試食では、なんと「タルタルステーキ」が登場。フードイベントではないテクノロジーの展示会であるCESで、Impossible Foodsは代替肉を生で提供した。タルタルステーキとして食しても、十分にお肉感があるものに進化していたのだ。
蛇足だが9月末には熟成肉専門店の「格之進肉学校」で、格之進の熟成肉ハンバーグとの比較試食会が開催された。それぞれ異なる味わいながら、どちらも「うまい」と周囲を唸らせた。

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格之進肉学校での比較試食会

調理科学本をきっかけに
テックベンチャーがフード産業に

オンライン調理サービス

Impossible Foodsの代替肉は今後、日本でも食べられる場所が増えていく見込みだが、実はフード産業とテクノロジー業界はさまざまな面で交差し始めている。
「調理」というプロセスが化学変化を伴うもので、そのためのプロセス開発(調理方法、レシピ開発)は理系分野であることも、フード産業とテクノロジーの相性が良いということもあったが、実はひとつの著作がテクノロジー業界を大きくフード産業に近づけた経緯がある。
その著作とはネイサン・ミアボルドが記した「Modernist Cuisine」。さまざまな調理、料理のプロセスを断面写真で記し、おいしさが生み出されるプロセスを科学的に解明している。その後、多くの続編を生み出したが、いずれもその本質は同じだ。
同氏はもともとマイクロソフトのエンジニア。同社で成功したことで得た資金を投入し、美食を追求して、最後には自分自身が料理人になってしまったという人物である。
業界の有名人でもあるミアボルドの著作は、シリコンバレーのテック業界に大きな影響を及ぼし、テクノロジーによっておいしい化学反応をもっとシンプルに家庭に届けられないかと考える人たちが出てきた。
現在、シリコンバレーには低温調理はもちろん、発酵、焼く、蒸す、煮るなど、さまざまなプロセスをIoTとネットワークサービスで管理するアイデアを商品化しようと、多くのベンチャーが生まれている。
その一部はすでに商品化されており、中には家庭でビールの発酵を行う装置(全米各所のブリュワリーのレシピをパッケージ化したサブスクリプションサービスなどもある)など、多様性を広げていたが、コロナ禍の中でさらにこの動きは加速してきた。

オンライン調理サービス

家庭でもプロの味
「あの場所」の味を

料理する女性

フードテックには大きく分けると5つの分野がある。コンシューマー向けでは「自宅飯」と「外食」。産業を支える基盤においてはImpossible Foodsなどの「次世代食材」、「食体験向上技術」(フレーバー生成やプレゼンテーションアド)、「フードデータ構築」(経験に頼ってきたプロセスの数値化やトレーサビリティ、食材管理など)だ。
このうちコンシューマー向けの自宅飯と外食産業は、コロナ禍の状況で大きな変化が起きていることは改めて言うまでもない。おそらく元に戻ることもないだろう。こうなれば、そうした食の現場を支える産業基盤にも変化が訪れるのは当然のことだ。自宅にプロの味をどのように届けるのか、あるいは現地に行って初めて味わえる「あの味」をどう再現するかといった取り組みに、より大きな価値が認められるようになる。
例えば、本連載でも紹介したシャープの「ヘルシオ ホットクック」は売上が急増しているが、ホットクックに材料を入れて調味料を投入、後はメニュー番号を選んでスイッチを入れるだけで、毎日のおかずが出来上がるサブスクリプション料理キット宅配サービス「ヘルシオデリ」の加入者も増加している。
ホットクックが他の電気鍋と異なる点は、蒸気センサーや温度センサー搭載による細かな制御、それに自動的にかき混ぜるメカなどにある。鍋の中身の状態を検知して、最適な火加減に調節し、焦げ付きやすく火力調整が難しい無水調理を自動で行う。料理を化学反応と捉え、どのように熱を加え、かき混ぜ、蒸らせば良いかなどを調節することで、調理プロセスを自動化しているわけだ。
このような視点をさらに広げ、料理人が持つ発想やちょっとしたノウハウを自動化、あるいは配送などで解決し、これまで特定の場所に行かなければ楽しめなかった味を家庭でも楽しめるようになる時代は、もうすぐそこまできている。
CESではサムスンがロボットアームを備えるキッチンを披露し、自動調理時代の幕開けを予見させたが、そうしたラディカルな変革以前に、一つひとつの細かい調理器具の改良が、フード産業を発展させるだろう。
これまでテクノロジーがあまり入り込んでいなかった領域だけに、器具だけでなく、食材、流通、付随サービス、コンテンツなど、さまざまな部分にまだ見えていないビジネスの鉱脈が眠っていそうだ。

【2020年9月作成】
料理する女性

格之進肉学校(六本木分校)

東京都港区六本木7-14-16 六本木リバースビル
定休日 : 日曜日
https://kakunosh.in/restaurant/kakunoshin-nikugakko-ro.html

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