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テイクアウト、デリバリーに、“先払い”応援。コロナに立ち向かう飲食店支援のアイデア テイクアウト、デリバリーに、“先払い”応援。コロナに立ち向かう飲食店支援のアイデア

新型コロナウイルス感染拡大で事業の継続が難しくなっている業態は多数あるが、中でも厳しいのが飲食店だ。当初はテレワークの広がりから、住宅地の飲食店は人が入っていたものの、自治体からの要請で時短営業、あるいは営業自粛を強いられるだけでなく、いわゆる“三密”を避けるため来店者が激減している。
外食産業の中でも壊滅的な打撃を受けているのは都市部の飲食店だ。営業を自粛して休業補償を受取っても、家賃を払いきれず廃業に追い込まれるケースも少なくない。ぐるなびの調査によると、4月の売り上げが50%以上減少した店舗は92%。80%以上減少した店舗だけでも35%にのぼる。
こうした中で、さまざまな形での飲食店支援が広がっている。

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先払いで飲食店を応援する
サービスが人気

キッチハイク 応援早割予約

飲食店はIT化が最も遅れた業種と言われ続けてきた。
今やネットやアプリで飲食店を検索するのは当たり前のこととなっているが、飲食店側はIT投資ができるほど大きな規模ではないことが多い。大手外食チェーンでもなければ、来店顧客のデータベース化や来店パターンの分析、リピート顧客の補足とフォローアップなどを徹底できているところはない。
しかし、それだけにネットベンチャーが飲食業の効率を高めるため、さまざまなアイデアでこのジャンルに挑戦してきた。そうした外食産業に根差すネットベンチャーの多くは、コロナの影響を受ける飲食店に対し、さまざまな形で貢献しようとしている。

以前にこの連載でも紹介したネット予約・顧客台帳サービスの「トレタ」は、小規模のディナーイベントをアプリを通じてシェアする「キッチハイク」と提携。
キッチハイクが実施している「#勝手に応援プロジェクト」の利用を促進する「応援早割予約」機能をトレタの中に組み込んだ。「#勝手に応援プロジェクト」は、先払い応援システムの先駆けで、クレジットカードなどの決済手数料5%が応援する利用者負担となる一方、システム利用料は無料に設定している。
トレタを通じて早割予約を行うと、キッチハイクの飲食チケットシステムを流用し、既存飲食店の飲食チケット(電子チケット)を予約システムを通じて購入できる。予約したくとも、いつ通常営業へと戻れるか分からない行きつけの飲食店を応援するため、先払いすることで飲食店のキャッシュが切れないようにする配慮だ。

同様の仕組みは「ごちめし」を展開するGigiも提供している。「ごちめし」はアプリを通じて飲食店の料理をプレゼントする仕組みだが、このシステムをそのまま流用することで、先払いで将来の食事代金を支払う「さきめし」というサービスを展開。同サービスの利用には10%の手数料がかかるが、支援する側がこの利用料を負担するため、受取る飲食店は、まるまる料金分の金額を受取れる(決済手数料は10%に含まれる)。
こうした動きにサントリーが呼応し、Gigiに対して1億円の予算を拠出。「さきめし」の利用にかかる10%の手数料をこの1億円の基金から捻出することで、無料で「さきめし」が使えるようになった。

一方、決済サービス「Square」は電子プリペイドカード発行機能を用いた資金繰りについて飲食店だけではなく様々な加盟店を支援するプログラムを開始した。
電子プリペイド機能はSquareに元々備わっていた機能であるため、追加の手数料は取られない。決済手数料の3.45%のみで利用できる。
Squareは加盟店が作成したプリペイドカードを、専用の支援サイトでプロモーションすることで支援していく。

キッチハイク

飲食店を応援する
「先払い」と「貸金」の違い

「ごちめし」と「さきめし」

このような応援の形に、飲食業界では慎重な声も少なくない。応援という形で先払いの代金を受取るということは、将来の売り上げを先に食いつぶしているとも言えるからだ。これは見方によっては借金であり、将来の経営を圧迫することになるのではないか、という懸念だ。
「ごちめし」が発表された際にも、運営者がシステム利用料を徴収することや、利用料の支払いを支援者側が行うこと(飲食店は手数料負担がないこと)などが周知されておらず、否定的な意見が出ていたこともある。
しかし、先払いと貸金は明確に異なる。100万円を先払いで売り上げれば、いつか、営業を再開した時に100万円分の食事を提供せねばならない。その際の収入はないぞ、ということだ。

しかし、この方法が金融機関からの借入と異なるのは、多くの場合、利息がつかない(お礼としての割引などはある)ことも飲食店にとっての利点ではあるが、もっとも大きな違いは返済期限が基本的にはないこと。
先払いした飲食代を、いつ実際の飲食時に充当するかは支援者次第。加えてその期間がどれだけ後ろ倒しになろうとも、利息のように雪だるま式に増えたりはしない。さらにはたとえ店舗の継続を断念したとしても、元から「支援」のための先払いチケットであるため、再建処理に追われることもない。
あくまでも支援。先払いによる飲食店支援は、支援者たちが少額ずつ出し合ってお金を「貸している」のではなく、「お店を辞めないでほしい」という応援の気持ちからのマイクロファンディングとも言えるだろう。
そうした「出資」という側面を強く持たせているのが、前出のトレタがクラウドファンディングの「READYFOR」と提携して提供している支援策だ。

「ごちめし」と「さきめし」

資金調達手数料を無料とするトレタ
とREADYFORの飲食店支援

READYFOR

トレタの予約システムを契約している飲食店に限られるものの、クラウドファンディングで飲食店の事業継続支援プログラムを「READYFOR」で募集する場合、本来は7%となるサービス手数料が無料になる(決済手数料の5%は必要)。
将来のリターンを設定し、お店の将来に投資をしてもらうという形。READYFOR以外にも、CAMPFIREが飲食店支援で利用料を0%とする措置を取っている。
クラウドファンディングのサービスには、飲食店以外にも多様な支援プログラムが登録されているが、ネットを通じた資金調達の経験に乏しい飲食店なども救済するため、地域ぐるみでのプロジェクトを組んでいる場合もある。

例えば埼玉県川口市では、お得な飲食券を得られるプロジェクトに参加する飲食店を指名した支援以外にも、登録店全体に対する寄付も行える仕組みを採用している。
将来のご飯代という、飲食業に携わる人たちのモチベーションを高める形での応援から、地域の外食産業を守りたいという気持ちまで、幅広く柔軟に対応できるのは、クラウドファンディングならではの特徴だ。
もっとも、コロナの影響による事業継続の問題は長期化しており、そもそもの業態変更が求められている側面もある。

政府も飲食店の支援を行うため、期間限定の酒販免許を認可する一方、デリバリーやテイクアウトでの収益確保を促しているが、それに呼応して各種インターネットサービス事業者も、デリバリー、テイクアウト店舗支援のためにサービス仕様の変更を行い始めた。

READYFOR

広がるテイクアウト、
デリバリー支援

これまで出前と言えば、そば屋やうどん屋、ラーメン屋、せいぜいカレー屋ぐらいだったが、「Uber Eats」や「出前館」といったデリバリーサービス事業者の台頭もあり、さまざまな店舗がデリバリー、テイクアウトへと挑戦している。
「Google」はGoogleマップの初期画面に「テイクアウト」「料理の宅配」というアイコンが並び、クリックするとそれぞれに対応する地域の店舗が表示されるようになった。「Yahoo!Japan」もテイクアウト、デリバリー情報を掲載。「食べログ」や「Retty」「ホットペッパーグルメ」にもテイクアウト情報が掲載されるようになった。

日本全体を見ると、緊急事態宣言が解除された地域などもあるが、人が集まることでの密集リスクがある状況は簡単には解決しない。とするならば、これまでのように店舗の中で価値を発揮していた飲食店も、デリバリーや持ち帰りという限られたフォーマットの中で立ち位置を見つけねばならない。

これまでは「店を訪ねてこそ分かる価値」で勝負してきた料理人たちは、「持ち帰りやデリバリーでも価値がある」料理で勝負せねばならない。それでは店舗で提供してきたほどの価値を提供できないとの声もあるが、食産業はエンターテインメントでもある。時代や環境が変化することで、それまでとは異なるお客を楽しませるサービスや才能が求められ、呼応する形で新しい世代への変化、淘汰が進んできた。

これは飲食業に限った話ではないが、コロナの影響で変化する消費者ニーズの動きは、一時的なものではなくその後のトレンドに大きな影響を及ぼすだろう。もう決して「コロナ前」には戻っていかない。
テイクアウトやデリバリーだけが答えとは言えないが、「アフターコロナ」を見据えて新しい環境での価値提供を創出していく必要があるだろう。

【2020年5月作成】
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