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昭和の薫り漂う麻布十番『歌京』が若者の人気を集める理由 昭和の薫り漂う麻布十番『歌京』が若者の人気を集める理由

店内写真

東京・麻布十番にある「十番右京」は、女性を中心とした日本酒ブームの火付け役ともいえるダイニングバーだ。70種類を超える日本酒はアルコール感を感じさせず、アロマティックでフルーティーな舌触りの純米酒、吟醸酒をそろえる。この店のオーナー岡田右京さんは、バッグや靴、アパレルのセレクトショップを中心とした会社を起業、共同経営していた。その一方、「とにかくおいしいお店を探すのが大好き」で、20代、30代と経ながら、「いつか自分自身が行きたいと思える飲食店を出したい」と考えていた。

そんな岡田さんが勝負をしかけたのが2011年、東日本大震災の直後。5月に契約して7月に開業した。

当時、麻布十番はワインを中心としたおしゃれな飲食店が多かったものの、前時代的なイメージで敬遠されていた日本酒を積極的に提供する店はあまりなかったという。

そこで、「ワイン好きの集まる麻布十番」で日本酒の新たな可能性を楽しんでもらうべく、選び抜いた銘柄を中心に焼酎や泡盛、国産ラムなどの和酒を数多くそろえた店として生まれたのが十番右京だ。それがいまや、海外からの予約も多く集まる大人気店となった。

もっとも最初からワイン好きの女性層を狙っていたわけではない。日本酒の持つステレオタイプ(固定概念)を打ち破りたいと考えていたものの、主な顧客は40代以上の男性と踏んでいたのだ。ところが、実際に店を訪れ、予約を埋めていったのは30〜40代の女性。

そこで、より多様な日本酒を楽しんでもらおうと「半合(90ml)」からでも注文できるようにしたり、ワイングラスやショットグラスなどで日本酒の「香り」を楽しむことを提案したりと工夫を重ねた。

こうした施策がマスコミなどにも取り上げられ、日本酒業態の新たな可能性として模倣店が生まれるほどの人気店になっていった。

店内写真

日本酒と、ぜいたくな素材の
マリアージュを提案

料理写真

創意工夫はお酒だけではない。

100種類以上もあるフードメニューには、今や多くの店が類似メニューを用意するようになった「名物トリュフたまごかけご飯」「和ダレのフォアグラご飯」といった、ちょっとぜいたくな「締めもの」が充実し、多様な組み合わせのトッピングも選べる。

「今から6〜7年前、トリュフやフォアグラは、数万円のコース料理にほんの少ししか提供されない食材でした。でもそんなぜいたくな食材を少しだけでいいから、居酒屋みたいな気軽な場所と価格で、しっかり味わってみたい。そんな自分自身の好奇心もあって開発したメニューが大人気となりました」

「マグロのカルパッチョトリュフのせ」「いぶりがっこマスカルポーネ」「ラム肉の麻婆豆腐」といった、和洋中素材を取り合わせ苦みや薫製香などを生かした日本酒にマッチするメニューも十番右京発の食べ方。

半合での日本酒提供と同様、ほんの少しだけご飯ものを食べたい客たちに、「ミニミニおちょこ丼」というぜいたく素材の丼ものをそろえるなど、来店者の気持ちに寄り添ったメニューに、岡田さんの高い共感力が垣間見える。

現在は毎月、特定都道府県の特集メニューを提供。各都道府県の名産を用いたフードメニューと同地の日本酒のマリアージュを提案し、人気商品は定番としてグランドメニューに掲載。開店から8年以上が経過した現在でも、その勢いは衰えるどころか増しているほどだ。

2017年には恵比寿にも支店を出したが、それだけでは国内外からの予約増に対応できない。そこで、19年5月22日には十番右京を現在よりも広い新店舗に移転。新たな店内は天井高が4、5mもある開放的な空間となった。それまであった場所では夏に新業態を開業し、さらなる飛躍を目指すという。

「好きで始めた飲食業ですが、『はやらせよう』と思ってもなかなか狙ってはできません。せっかく多くのお客さんが来てくれるようになったのだから、もっと突きつめて飽きさせない『やんちゃ感』のあるお店を作っていきたい」

料理写真

作り上げた空気感を、
店と客が共に楽しむ

店内カウンター

そんな岡田さんの趣味を前面に押し出した「攻めの出店」は、別ジャンルでも成功を収めている。十番右京のメニューを楽しみながら、昭和歌謡に耳を傾けつつ「大人がゆっくり楽しめる二軒目の店」として2015年に開店した「懐メロダイニング・歌京(かきょう)」だ。
実は岡田さんは高校1年生の時にターンテーブルとミキサーを買い、現在はレコード2500枚、CD4000枚を所有するほどの、大の音楽好き。

店内のBGMは、昭和50年代に青春を駆け抜けた岡田さんが大好きな歌謡曲やJ-POP。さらに遅い時間帯になれば、ノリノリのDJプレイへと突入し、岡田さん自らDJをすることもある。ダンスフロアがあるわけではないが、昭和な音楽を現代的なクラブ音楽として楽しませ、ノスタルジーの中にも新しさを感じさせる演出だ。
店内は80年代を中心にした日本のファッション、ポップカルチャーを色濃く反映したインテリアで統一されている。並べられているのは懐かしいDCブランドの洋服やカセットテープ、ファミコン、ウォーターパズルに若者向け雑誌、ラジカセや当時のCMを思い起こさせるさまざまなキャラクターのグッズ。この空間にいるだけで、青春のひとときを思い出して、甘酸っぱい気持ちがこみ上げてくる「オジサン」「オバサン」世代も多いだろう。

ところがこの歌京も、客層は「40代、50代のオジサン」が中心と思いきや、20代から30代前半の若者男女にもウケているのだ。

オーナーの岡田さんが「大好き」な店を、丁寧にコストと手間をかけて作ったことで評判が評判を呼び、深夜まで営業する店には、著名人やアーティストなども多く集まる。昭和を代表する歌手が来店すると、当時のヒット曲を流してみんなで盛り上がり、それがまた口コミとなって新たな客を呼ぶ。

何ともいえない独特の、良い空気感に包まれた店に引き込まれるように、口コミに敏感なSNS世代の若者たちが来店するようになったことで、歌京は予約や空席の電話確認が必須の大人気店となった。

その空気をもっとも楽しんでいるのは、オーナーの岡田右京さん自身。そうした姿勢が、エンターテインメント性の高い店を求める現代の顧客たちを誘引してやまないのだ。

【2019年5月作成】
店内カウンター
店舗入口

歌京(かきょう)

東京都港区麻布十番1-5-8 ヴェスタビル B1F
Tel 03-3403-7255
営業時間 18:00~5:00(日曜日定休)


十番右京(5月22日以降の新店舗)

東京都港区麻布十番2-8-8 ミレニアムタワー B1F
Tel 03-6804-6646
営業時間 
月~金:18:00~4:00
土:17:00~4:00
日:17:00~0:00

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