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本田雅一が選ぶ いましりたい ニューストレンド 第6回 「米国のファーウェイ制裁」が及ぼす影響は決して小さくない 本田雅一が選ぶ いましりたい ニューストレンド 第6回 「米国のファーウェイ制裁」が及ぼす影響は決して小さくない

世界第2位の座を米アップルと争っているスマートフォンメーカー華為技術(ファーウェイ)が、米国政府による輸出規制により窮地に立たされていることは、多くの読者がご存じでしょう。

これを対岸の火事と見る向きもあります。特定メーカーがシェアを失ったとしても、他メーカーがその需要を埋めることになるからです。ただ、この制裁に関連した日本への影響は過小評価すべきではありません。

なぜならば、ファーウェイの事業規模が極めて大きいことに加え、彼らの部品調達額が激減することで、サプライチェーンに大きな混乱が生じると考えられるからです。

周知の通り日本の部品メーカーが得意とする高周波部品、イメージセンサーなどの領域で注文のキャンセルが大量に出れば、業績は当然マイナスとなります。しかも、アップルと同規模のスマートフォン販売を行っているメーカーが減産するとなれば、一時的にでも部品を納入するメーカー側には大きな影響が出ます。

予想以上に大きかった
制裁措置の影響

制裁措置の影響力を表す画像

ファーウェイ側は「影響は受けるが業績へのインパクトは少ない」と主張していましたが、早々にそれは打ち消されることとなりました。

2018年にファーウェイが生産・出荷したスマートフォンは約2億台、そのうち半数の1億台が海外への輸出品でした。ところが今年はその海外販売が約4000万台減り、6000万台程度にとどまるとの予測を、ファーウェイが発表したためです。

この予測に基づき、ファーウェイは減産を行う予定です。主因はOSの継続的なアップデートが不可欠なスマートフォンにおいて、グーグルの継続的なサポートを受けられるかどうか不透明になったためです。

中国国内向け製品には、グーグルのソフトウエアを搭載していませんが、それ以外の国に出荷する端末向けには必須となります。このためファーウェイ製端末を購入しても、将来的なOSのアップデートなどが受けられない可能性を懸念して買い控えが起きています。

現在は販売が再開されましたが、日本でもアマゾンなどでファーウェイ製端末の販売が一時中断されるなどの混乱が見られました。

ファーウェイの事業別売り上げシェアでは半分が基地局、および基地局を制御するサーバですが、近年売り上げを急速に伸ばしていた端末の大幅な減産が響き、今年の売り上げは昨年に比べ、約3兆2600億円のマイナスになる見込みです。

米国に次いで多い
日本からの調達

街の写真

米政府の制裁措置は、ファーウェイがイランに対して軍事転用可能な技術を供与した疑いから派生したものです。米中貿易摩擦の影響が大きいことは間違いありませんが、制裁根拠となっているのはイランへの輸出問題で、この疑いをすぐに晴らすのは難しいでしょう。

G20大阪サミット開催時に行われる予定の米中首脳会談で両国が歩み寄り、その象徴として制裁措置が解除される可能性もゼロではないでしょうが、望みは薄いと考えられます。

受注から納品までの納期が長く、急な生産調整が難しい半導体などの部品メーカーは、この影響を大きく受けることになります。特に生鮮食料品にも例えられるほど、需給バランスが価格に影響しやすいDRAMやフラッシュメモリーは、半導体メーカーにとって大きな打撃となる可能性もあります。

ファーウェイ向けに部品を供給している企業は、グローバルの合計で1万社を超えていますが、中でももっとも多いのは米国で、およそ1200社に上ります。米国に次ぐ第2グループは日本、台湾、韓国などで、日本からはソニーのイメージセンサーや東芝のDRAM、フラッシュメモリー、村田製作所やTDK、アルプス電気などの高周波部品が輸出されています。2018年のグローバルでの調達額は総計で約700億ドルでしたが、今年はさらに2割ほどの上積みが期待されていました。

日本のメーカーが供給している部品は、いずれもスマートフォンを作る上で必要不可欠なものが多く、メモリーを除けば高品質で代替が効かないものが多いこともあって、長期的にみれば納入先が変化するだけともいえますが、短期的にサプライチェーンが乱れることは避けられません。

5G端末普及への影響も?

5G端末を持つ女性

年に2割以上のペースで成長を続けてきたファーウェイは、自社でSoC(スマートフォンの主要機能を構成する半導体チップ)を開発。自社SoCを背景に独自にカメラを発展させたり、あるいはOSであるAndroidの性能を大幅に高める技術を開発するなど、成熟期にあるスマートフォン市場にあっても、独自性の高い製品を提供してきました。

加えてファーウェイは5Gの技術開発においても、要素技術を提供してきた重要な企業のひとつです。5Gネットワークを構成する上でも、端末を開発する上でも、ファーウェイの停滞は小さくない影響をもたらすでしょう。目先の話題でいうならば、日本のスマートフォン端末市場への影響が大きいと見られます。

ファーウェイ製端末は日本市場でも急速に勢力を伸ばしてきました。その理由は高性能なハイエンド端末の価格対性能比が高いことに加え、ミドルクラスの購入しやすい価格帯に、他社上位モデル並みの質感や高性能カメラを搭載した製品を投入。近年は自社開発SoCの性能も向上し、頭ひとつ抜け出た機能と性能を実現していたためです。

菅官房長官は総務省が掲げた電気通信事業法改正案について触れ、「今年10月から端末購入時の支援金上限が2万円、長期契約の解約金上限が1000円となることで、携帯電話料金と端末単価が下がっていく見通しだ」と話しました。

現在のスマートフォンは上位モデルで10万円を超えるものも多く、今年話題になっている折り畳み型や、日本では来春以降に登場する5G端末は20万円前後になるとも予想されています。

高性能・高機能な製品が高価であることは自然なことですが、グローバルでは許容されている長期契約による割引措置などが禁じられるようなら、iPhoneをはじめとする高級端末の販売比率が下がり、ミドルクラス、あるいはエントリークラスの端末が伸びることになるでしょう。

そうした市場においてメインプレーヤーとなることが期待されたのが、価格対性能比に優れたファーウェイ製端末でした。例えば今年春モデルでいえば、NTTドコモがファーウェイ製最上位モデルを採用したのに対し、KDDIとソフトバンクはファーウェイ製のミドルクラスモデルを採用。格安SIMサービスの事業者もエントリーモデルを取りそろえ、それぞれ人気を集めていました。

さらに端末購入時の支援金が制限されることも考え合わせると、来年以降の5G端末普及にも少なくない影響を与えるといえます。今後の米中両政府やファーウェイの対応、スマートフォン市場の動向に注目しましょう。

【2019年6月作成】
本田 雅一(ほんだ まさかず)

本田 雅一(ほんだ まさかず)

フリージャーナリスト・コラムニスト

テクノロジジャーナリスト、オーディオ&ビジュアル評論家、商品企画・開発コンサルタント。
技術を起点に経済的、社会的に変化していく様子に着目し、書籍、トレンドレポート、評論、コラムなどを執筆。

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