「FOR SURE(フォーシュア)」という新しいファッションECサービスが8月29日から始まりました。
6月から試験サービスが開始されていたフォーシュアは、インフルエンサーがファッションブランドと消費者の媒介役となる、スマートフォンアプリを通じたこれまでにない考え方のファッションECサービスです。
ファッショントレンドを牽引しているトップインフルエンサー500人が、インフルエンサー専用アプリ「SURELIST(シュアリスト)」を通じて購入した、購入後の商品を自分なりの着こなしとともに発信。共有した着こなしの写真は連動するインスタグラムのストーリーズでも公開されます。
インフルエンサーに共感を持つフォロワーたちは同じ商品、カラーなどをEC専用アプリ「フォーシュア」を通じてコーディネートを参考にしながらショッピングを楽しむことができます。商品紹介では、同じインフルエンサーが購入している他アイテムのコーディネート、あるいは同じ商品を他インフルエンサーがどう着こなしているか? なども見ることが可能です。
運営するリデルの福田晃一社長は「共感しているインフルエンサーが、どんな洋服を選びクローゼットに並べているのかを見せてもらう感覚」で買い物ができると説明します。
ファッションECと言えば、ヤフージャパンが買収を発表したZOZOTOWN(ゾゾタウン)が、若年層に人気のサービスとして知られていますが、近年は競合も増加。ゾゾスーツなどの開発に取り組みましたが、最終的には割引販売へと傾注していきました。
「ECとしての機能」が平準化すると価格での差異化に向かいがちですが、福田社長は「フォーシュアは商品を掲載するブランド自身がセールを行う場合をのぞき、割引サービスを提供することはない」と話します。
なぜなら、フォーシュアを通じた購買の動機付けは価格ではなく、あくまでも共感するインフルエンサーのセンスだからです。
アーバンリサーチ販売促進部の清水樹二也氏は「新しい商品の提案は、あらゆる手法を通じて行います。ファッション誌への広告、ネットでのリスティング広告、インスタグラムなどSNSも重視しています。タイミング良くほしい情報が当たれば効果的ですが、ほしくない情報を見せられると、SNSユーザーは嫌悪感を憶えます」と指摘します。
インスタグラムで多くのフォロワーを持つインフルエンサーに商品を提供する「ギフティング」や、報酬を支払い自社製品のコーディネートを投稿してもらうマーケティング方法が流行した時期もありました。しかし、商品提供や報酬を伴う投稿には「#PR」など、プロモーションであることを明記せねばならず、場合によっては逆効果にもなります。
また、インスタグラムは一般利用者がリンクを張って勾配動線を引くことはできません。一定の告知効果は期待できますが、結果へと直接導く成功例を作るのは難しいものなのです。
清水氏はインフルエンサーの感性を通じて、自社製品のイメージを伝えられることがフォーシュアの魅力だと話します。
「ゾゾタウンの影響力が下がってきたから、AIを用いて顧客にダイレクトに提案するECサイトを自社で構築しましょう。そんな提案はたくさんあります。しかし、我々にとってゾゾタウンは今も重要なチャネルです。競合するのではなくインフルエンサーの感性というフィルターを通じて、色やアイテムの組み合わせ提案が自然に生まれる仕組みに興味を引かれました」と清水氏は言います。
フォーシュアで着こなしなどを発信するインフルエンサーは、運営するリデルが選んだ500人のみ。登録する2万人から特にファッション分野に特化して影響力を持つ500人を抽出。「シュアリスト」として任命し、IDを付与しています。 専用の「シュアリスト」アプリで、フォーシュアに出店するファッションブランドのアイテムを購入。着こなしを自らのSNSアカウントなどで発信しつつ、シュアリストで詳細な情報を共有します。ポイントは「実際に購入した商品しか発信できない」点です。
一般ユーザーは連動するインスタグラムアカウントで発信された情報から、自分がフォローするシュアリストのコーディネートを見て、そこから「フォーシュア」アプリで、他シュアリストの着こなし写真、フォローするシュアリストが購入した他のアイテム、商品の詳細情報などを得て購入すると、シュアリストにはコミッションが支払われます。
フォーシュアの販売手数料はゾゾタウンなどと同じ30%ですが、このうち7%は購入者が参考にした投稿をしたシュアリストに支払います。
つまり、インフルエンサー自身が買い物をし、買ったアイテムを発信。結果的にフォロワーが購入したときにのみお礼が発生する仕組みであるため「#PR」タグが不要になります。また、ブランド側は予測不可能な成果に対して報酬を支払うのではなく、実売に応じた報酬を支払えばいい訳です。
セレクトショップ「LOVELESS」としてフォーシュアに出店する三陽商会セレクトショップビジネス部の西垣卓氏も「ブランド自身が発信するだけでなく、各アイテムをどう組み合わせ、着こなすか。ファッションのセンスや気付きを、ファッション好きの個人が担うことで、より消費者に近づけます」と、参加の理由について話してくれました。
試験運用時から参加しているというシュアリスト・石田一帆さんは「大好きな洋服をどう見せれば、フォロワーに刺さるのかを事業として考えてえみました。ギフティングでもらう商品ではなく、本当に自分が着る洋服を選んで購入する。いつもはインスタグラムで共有してそこで終わりですが、さらに追加で着こなしも語れる。インスタグラムを補完したうえでプラスαを見せる、セレクトショップ店員のような視点で参加してみました」とメリットを話します。
インスタグラムを通じてメイクアップ用アイテムなど美容用品の使い方などを発信して多くのフォロワーを獲得。選んだコスメのカラーに合わせた洋服のコーディネートも発信していると言います。
リデルの福田社長はプレサービスを通し「これまでとは異なる売れ方をブランド側からも評価してもらっている」と話します。
シュアリストが着用した色が突出して売れたり、個性的で一般的には着こなしが難しいデザインの商品が、シュアリストの写真掲載で売れるといった、従来のECにはなかった傾向が見られるためです。
「ファッションECサイトは、売れるブランドが固定化する傾向があります。しかしフォーシュアでは個性的でニッチなデザイン、色使いでもシュアリストの見立て次第で売れる。提案性の高いブランドのチャンスが拡がると思います(福田氏)」
リデルではフォーシュアを「個人が個人に販売する機会を生み出すC2Cサービス」と位置付けていますが、まずはシュアリストとして選抜される必要があります。
そうした意味ではインスタグラムなどで影響力を持ったインフルエンサー個人が、自分の選んだ洋服を販売する「Personal to Consumer(P2C)」サービスと表現した方が正しいのかもしれません。
ファッション流通における事業環境の変化のひとつとして興味深い取り組みであり、今後も注目したいサービスと言えるでしょう。
フリージャーナリスト・コラムニスト
テクノロジジャーナリスト、オーディオ&ビジュアル評論家、商品企画・開発コンサルタント。
技術を起点に経済的、社会的に変化していく様子に着目し、書籍、トレンドレポート、評論、コラムなどを執筆。