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本田雅一が選ぶ いましりたい ニューストレンド 第8回 プレサービスが開始された5G。本当の主役は中堅企業 本田雅一が選ぶ いましりたい ニューストレンド 第8回 プレサービスが開始された5G。本当の主役は中堅企業

ラグビーワールドカップに合わせた、NTTドコモの5Gプレサービスが開始されたのを皮切りに、いよいよ日本も5G時代が幕を開けようとしています。楽天モバイルのインフラ整備遅れなども懸念されていますが、一方で「5Gで何が変わるのか?についての明確なビジョンが見えない」との悩みもよく聞かれます。

しかし、これは無理もないことです。単なる移動通信の手段という位置づけを超えて、5Gが社会基盤、産業基盤を大きく変えると言われている理由は、通信デバイスの性能や機能が向上するといった単一方向だけの価値向上に止まらないからです。
単にスマートフォンの性能、機能が向上し、4Kや8Kの高精細映像が配信され、VR/ARのコンテンツにリアルタイムにアクセスできる。そんな世界観だけならば、社会基盤・産業基盤を変える存在とは言えません。

5Gが新しい社会基盤を創ると言われている理由は、世の中にあるさまざまなバリューチェーンが、すべてワイヤレスで結ばれ、距離を超越してリアルタイムにつながることにあります。そしてその主役は、各事業領域ごとに得意分野を持つ中堅企業です。

1年半で3000社を
超えた共創プログラム

アプリスタートの様子

日本の産業構造を俯瞰すると、大企業が事業全体の枠組みに投資して環境やインフラを整えつつも、バリューチェーンの要所で推進役となっているのは中堅企業であることが多く見られます。そして力のある中堅企業が取り組んでいる課題解決を、さまざまなノウハウと要素技術で中小企業が提供する構造が見えてきます。

「ものづくり」というジャンルは、そうした構造がもっともよく見えるジャンルではありますが、同様のレイヤー構造は日本のさまざまな産業分野で見られます。
一方でバリューチェーンの中で重要な役割を果たす中小企業は、5Gというトレンドからは遠い位置にあると感じているのではないでしょうか。

移動体通信も4Gまでの時代ならば、話はわかりやすく、スマートフォンはその典型定な例です。
現在のスマートフォンの原型であるiPhoneは、2G末期に生まれた製品です。3Gで利用できる通信帯域が広がると爆発的に応用範囲が広がり、4Gで社会全体へと浸透しました。
このスマートフォンによるイノベーションの中で、移動体通信はただひたすらに広帯域の通信インフラを提供するだけでよかったのです。「データ通信が広帯域になることが、すなわちスマートフォンの価値を高めることに直結していたこの時代は、新しい端末をばらまくだけでビジネスの現場が勝手に変化していったのです」。
そう話すのはNTTドコモ、5G・IoTソリューション推進室でエバンジャリストを務める岩田氏です。

しかし今回はそういうわけにはいきません。社会の問題解決手段として、実際に現場にあるさまざまな問題を知る企業との協業なしには、見えないことがあります。そこで2018年1月にNTTドコモが始めたのが「5Gオープンパートナープログラム」でです。
刮目すべきはパートナー数。中堅企業を中心に3000社を数え、その中には発足から間もないベンチャー企業も含まれます。

しかし、単に事例を増やすことが彼らの目的ではありません。NTTドコモだけでは接することがない、現場レベルで感じている問題に触れ学ぶとともに、視野を広げて複数のパートナーとのマッチングを取ることで、新たな価値創造を目指しているといいます。

代理店経由で中小企業や
ベンチャーにも5G活用の門戸を

FirstVR

「5Gオープンパートナープログラム」は、代理店を通じて申込むことで、ドコモが提供する5G回線をもとにしたアプリケーション開発を共創できますが、パートナーの規模は制約を設けていません。
「社会問題への気づきは顧客との距離が近い企業の方が、よりはっきりと意識しています。しかし、問題の発見はできても、解決できないと諦めている場合があります。我々の役割は、パートナーの気づきを通じて、社会問題を解決していくことです」と岩田氏は語ります。

例えば、ヒトの感覚刺激を電気的に再現し、重さや触覚などを再現するH2Lというベンチャーがあります。多くの電極を持つ装置に大量の電線の束が繋がれていた装置を見た岩田氏は、すぐにAR技術と組み合わせ5Gでつなぐことを思いつきました。
遠隔地にいながらにして、重さや感触をシミュレーションできれば、ARやVRはそれまでとは違うレベルのアプリケーションに発展するでしょう。
気づきと要素技術、それらを俯瞰して組み合わせるマッチング。広帯域の新しいネットワークを構築し、端末をばら撒けば、あとは自然にアプリケーションが生まれる。そんな平和な時代は終わったのです。

しかし、そうした時代が終わったからこそ、NTTドコモも大企業や中堅企業とのみアプリケーションを開発するのではなく、大小さまざまな立場の企業を集める仕組みの構築に本気を出し始めたと言えるでしょう。

夢を語る時代から
現実を語る時代へ。
5Gの幕開けを彩るのは
「現場力」

AIトレーナー付きエクササイズアプリ ReBorn

岩田氏は「これまでの日本企業と同様、事業スタイルをそのままにバリューチェーンを構築できる企業同士のマッチングを進めることで、自然に新価値を創造していく環境を作り出せると考えています」と話します。
これまでも未来感のある提案はいくつも行われてきましたが、本当に社会が変化していくとしたら、その主役は中小企業にあるのではないでしょうか。
無論、パートナーの数だけが価値ではありませんが、こうした取組み、複数企業のマッチングが進めば、より身近で具体的な成功事例が増えていくことでしょう。

【2019年10月作成】
本田 雅一(ほんだ まさかず)

本田 雅一(ほんだ まさかず)

フリージャーナリスト・コラムニスト

テクノロジジャーナリスト、オーディオ&ビジュアル評論家、商品企画・開発コンサルタント。
技術を起点に経済的、社会的に変化していく様子に着目し、書籍、トレンドレポート、評論、コラムなどを執筆。

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