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本田雅一が選ぶ いましりたい ニューストレンド 第14回 急成長するアプリ経済圏から透かしてみる日本市場 本田雅一が選ぶ いましりたい ニューストレンド 第14回 急成長するアプリ経済圏から透かしてみる日本市場

米アップルは年に一度の開発者向け会議を控え、大規模な市場調査を行いました。成熟したと言われるスマートフォン市場ですが、むしろ社会インフラとなったことで、その経済的な影響、新たな事業価値の創造という面で、刮目すべき状況が生まれていることを数字で示したかったのかもしれません。
その分析レポートからは、グローバルにスマートフォン関連市場をみたときの日本の成長余力を読み取ることができます。
レポートをまとめたのは、調査分析を得意とする米ボストンのコンサルタント企業・Analysis Groupです。

アプリを通じた経済活動
は5,190億ドル

円グラフ
出典元:Apple、App Store経済圏を通じて、2019年には5000億ドル以上の規模の経済活動を促進
https://www.apple.com/jp/newsroom/2020/06/apples-app-store-ecosystem-facilitated-over-half-a-trillion-dollars-in-commerce-in-2019/

今回のレポートの特徴は、スマートフォンのアプリやアプリ内課金など直接的な売り上げだけではなく、スマートフォンを通じて観られる映像サービス、あるいはアプリを使った通信販売、あるいは企業などが社員に対して提供している業務サービスの売り上げなども含んでいることです。
ただしアップルによる調査であるため、App Store(iPhone、iPad、Mac、Apple Watch、Apple TVを含む)を起点にした経済効果のみの測定となっています。報告によるとApp Storeを通じて流通する、無料・有料アプリを通じた経済活動は、なんと5,190億ドル(約55兆7,728億円)に達しています。
例えばNETFLIXやAmazon Primeビデオなどの、加入型映像配信サービスの加入料金、買い物アプリを通じてECサイトで購入した代金なども含まれています。またアプリ内課金などはもちろん、アプリ上で表示される「アプリ内広告」に関しても、この統計には含まれています。
かつて2016年に調査会社のApp Annieが「アプリが生み出すグローバルでの経済成長」についての概算を、Deloitte Touche Tohmatsu(DTT)が2018年に米国市場における経済規模について推定値をレポートしたことがありましたが、しかし、グローバル市場で多岐にわたる追跡調査が行われたのは今回が初めてのことだといいます。
Analysis Groupによると2018年、米国におけるアプリ経済の規模は3,400億ドルでした。グローバルでの計測値であることを考えれば、十分に納得できると数字ですが、Analysis Groupの調査担当者は「枝葉に分かれた経済活動の多くは合算しておらず、数字はかなり控えめだ」とコメントしています。

地域ごとに見られる
突出した数字

表
出典元:How Large Is the Apple App Store Ecosystem?
A Global Perspective for 2019
https://www.apple.com/newsroom/pdfs/app-store-study-2019.pdf

レポートは誰もがリンク(https://www.apple.com/newsroom/pdfs/app-store-study-2019.pdf)をたどることで読めますが、ここから読み取れるのは、アプリの直接の売り上げ以上に、日常的な消費の中でアプリが生み出している市場価値が予想以上に大きいことです。
App Storeでの直接の売り上げは1,550億ドルでした。これだけでも十分に大きな数字に見えますが、実際にはアプリを使って日々の生活で使う商品を購入したり、旅行やレストランの手配、宅配やタクシーの手配を行うなどの活動の方が、より多くの経済効果を生んでいます。
小売でのアプリを通じた商取引は2,680億ドルにまで成長していて、航空・宿泊など旅行関連が570億ドル、ライドシェア・迎車サービスが400億ドルとなっています。これらの数字は今後、コロナ禍の影響で下がるかもしれません。
しかし、料理や食材の宅配サービスが大幅に伸びており、昨年実績の310億ドルは今年、さらに飛躍していくでしょう。イートインのお店が減る一方、モバイルオーダー(事前にスマートフォンで注文、決済を終えておき、出来上がり時間に取りに行くサービス)の利用者も増えています。
さらに、ゲームや音楽、映像、新聞と言ったデジタルコンテンツ販売は610億ドル、アプリ内広告は450億ドルだったといいます。このいずれもが伸び盛りのジャンルと言えるでしょう。
ただし、これらの数字には地域ごとの格差も大きく、例えばライドシェア・迎車サービスにおける400億ドルの経済効果のうち、米国は実に230億ドルを占めます。対して法規制があってライドシェアが発展していない日本では、わずかに10億ドル。アプリ内広告も米国が突出しており、450億ドルのうち230億ドルを米国が占める状況となっています。
中でも際立っているのが、中国の「物販」に関する数字で、中国におけるApp Storeを通じた物販は、2019年に1,750億ドル(しかも調査会社によれば控えめな数字)に達しているのです。

日本市場に残る
「伸びしろ」

スマホでネットショッピングする女性

中国市場でスマホアプリを通じた小売の市場規模は1,750億ドルと、米国の440億ドル、欧州の220億ドル、日本の140億ドルと比べ、突出して大きく、Analysis Groupの担当者も驚いていましたが、スマートフォンによる商品の受発注が当たり前となっている中国市場を踏まえるならば、その市場概況は「将来の日本」とも考えられます。
例えばこれまで日本市場は米国や中国に比べ、ネット通販の比率(EC化率)が低いと言われてきました。近年、ネット通販の売り上げは伸びているものの、特にメーカー、ブランド側のオリジナルのアプリを活用したECの活性化が、一歩遅れているのは事実です。
しかし、コロナ禍による自粛期間で、日本の消費者はネット通販に対してより積極的になりつつあります。例えば、ユニクロはEC化率向上を掲げてきましたが、充実した店舗展開もあって2019年は11%程度に過ぎませんでした。しかし、店舗閉鎖期間や入場制限などコロナ対策を強いられる中で、30%程度にまで引き上げることを目標に掲げ始めました。
新型コロナウイルスによる消費動向の影響は、まだ業界全体で見極められているわけではないですが、外出自粛の影響により「洋服を通販で購入する」というスタイルに消費者が慣れてきたことは間違いないでしょう。
同様の課題は多くの業界に広がっており、スマートフォンアプリによる解決が不可欠で、これは他の商材にもいえることです。
前述した通り、日本におけるアプリを通した市場規模はまだまだ小さいものです。しかし、だからこそ、この難しい状況下で「伸びしろ」があるとも考えられるのではないでしょうか。

【2020年6月作成】
本田 雅一(ほんだ まさかず)

本田 雅一(ほんだ まさかず)

フリージャーナリスト・コラムニスト

テクノロジジャーナリスト、オーディオ&ビジュアル評論家、商品企画・開発コンサルタント。
技術を起点に経済的、社会的に変化していく様子に着目し、書籍、トレンドレポート、評論、コラムなどを執筆。

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