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本田雅一が選ぶ いましりたい ニューストレンド 第10回 身近にある「情報格差」。世代による「情報への接触方法」の違いとは? 本田雅一が選ぶ いましりたい ニューストレンド 第10回 身近にある「情報格差」。世代による「情報への接触方法」の違いとは?

おそらく50代以上の読者しかピンと来ないでしょうが、かつて「デジタル・ディバイド」という言葉が頻繁に使われていたことがあります。
90年代後半、やっとインターネットに一般ユーザーもつなぎ始めた頃、インターネットへの接続手段を持つ人、持たない人の間に情報格差が広がりました。これを「デジタル・ディバイド」と呼びました。

デジタル製品やインターネットを使いこなす人と、使いこなしていない人の情報格差、情報を処理する速度の違いが、その後の新しい「階層」をもたらすのではないか。あるいは非デジタル世代が社会的に取り残されないか、といった懸念が持たれていました。

今日、携帯電話(スマートフォン)にインターネットの出入り口がシフトしたことで、ほとんどの人がインターネットに接続して生活しており、もはやデジタル・ディバイドという言葉は意味を持たないように思えます。

ネットを使っているからといって、
同じ景色が見えているわけではない

スマホを持つ女性

もちろん、情報格差が様々な仕事や生活の効率を変えるかもしれないが、だからといって効率がすべてというわけではありません。しかし、「見えている景色が異なっている」可能性は考えておいた方がいいでしょう。

90年代後半は「インターネットを使いこなしているか否か」での違いが大きかったのですが、現在は「どのようにしてネットの情報に接触しているか」によって見えている景色が違っていることがあるからです。

たとえば先日、筆者はある商品の評価記事を書きました。あらかじめ取材を重ね、関係者に話を聞いたうえでの記事を製品の発売日に設定されていた解禁期限に合わせて公開しました。
ところが掲載から数日経過すると「商品がほしいと思ったので、詳しく書いてある記事だと思って長文を読んだのに、YouTuberと同じようなことしか書いていなかった」という感想がTwitterを経由して伝わってきたのです。

近年は注目の新商品が発売されるとYouTuberが商品解説動画を掲載するのが定番です。つまり、このコメントをくれた方は、日常的にYouTubeで情報を得て行動の起点としているのです。
まずYouTubeで情報を知り、興味を持つとウェブを検索します。彼にとって「最初に接触するメディア」はYouTubeであり、だからこそウェブにはYouTubeでは得られない情報を求めてやってくるのです。
もちろん、実際の情報伝播の経路は逆方向です。しかし、情報の受け手の立場で考えるならば、オリジナルは「最初に接触したメディア」と感じるのも無理はありません。多くの人は動画共有サイトも雑誌社や新聞社のサイトも、両方を使っているというのが実際のところでしょう。

しかし世代によって「どちらを先に使っているか」「日常的な情報収集の比重はどちらが大きいか」は異なります。これは遡れば「テレビ」「新聞」や「雑誌」などの間でもあったことです。それが今、デジタルメディアになったことで、全体像が見えにくくなっているだけに過ぎません。

あなたは何を使って
情報を探していますか?

タブレット

そうした側面がもっともよく分かるのが、グルメ情報の取り方です。
ある人はウェブ全体の中でキーワードを工夫して検索し、おいしそうな店の情報を探します。別の人はグルメサイト専用アプリを使い、距離情報を設定して近くの評判の店を探すでしょう。
ウェブ全体を検索するのか、それとも専門サイトを使うのか。あるいは専門サイトが提供しているアプリを使うのか。情報を探す形が違うだけで、本質的な差はありません。

しかし、見知らぬ土地でなにかおいしいものを…といったとき、あるいは外国への旅行でといった場合は、ウェブでの検索では実態がよく分かりません。
そこでSNS世代がよく使うのがInstagramです。Instagramを用いて、近くでどのような写真が撮られているかを検索し、興味を引いた写真を見つけると、その写真に付けられているお店のハッシュタグで再検索するのです。
するとその店の人気メニューや評判があぶり出されてきます。詳しいテキスト情報のレビューを理解しなくとも、写真と位置情報でサクッと目的を定められるという点で、Instagramにはグルメ専門サイトを超える利便性があります。

Instagramはファッション系でも、自分好みのファッション情報を得るために使っている人が多くいますが、このようにグルメ、あるいはご当地観光情報のネタ元として使われることが多くあります。このような情報の取り方の違いは、「鉄道の運行状況」といったリアルタイムの情報を得る方法でも差が生まれています。

先日、千葉県の台風被害で成田空港が機能不全に陥りました。このとき筆者はたまたま成田空港へと向かっていましたが、鉄道各社のサイトも機能不全に陥っていました。例えば京成スカイライナーはウェブでの座席予約を受け付けていたのです。もし、この予約が有効だと思って駅に向かっていたら、筆者は米国出張に行けなかったでしょう。

Twitterで情報を検索したところ、座席予約は「念のために取っている」だけのものであり、実際には復旧の目処が立っていないというボヤキが浮かび上がりました。情報を取るツールによって、同じようにスマートフォンを使っているように見えても、見えている風景は異なるのです。

次の世代に向けてのサービス、
商品設計を

スマホを持つ男性

このように、同じようにスマートフォンを使っているように見えても、情報へのファーストタッチ、そして同じ検索でも「考え方」、「使い方」の違いが異なることが分かるでしょうか。

情報の扱い方の変化は、スマートフォン登場当初から言われていたことですが、当時は「ユーザー投稿の写真や動画が情報への最初の接触点になる」と言われても、あまりピンと来なかった方も多いでしょう。

しかし、このようにして具体的な事例が上がってきている中にあって、新しい商品やサービスを設計する際、こうした情報ツールによる世代間ギャップは意識せざるを得ません。
「これからの世代」に向けて事業を考える、あるいは再調整するならば必要なことです。

先日、Yahoo! JAPANの持株会社であるZホールディングスとLINEの経営統合という話がありましたが、これもパソコン世代のポータルから抜けきることができなかった「ウェブ世代」のYahoo! JAPANによる、生き残りをかけた経営統合と受け取ることもできます。こういった動きを参考に自身の企業の事業内容を振り返ってみてはいかがでしょうか。現在、手元でうまく行っている事業があるとして、その事業を今一度、点検してみると新たな気付きがあるはずです。

【2019年12月作成】
本田 雅一(ほんだ まさかず)

本田 雅一(ほんだ まさかず)

フリージャーナリスト・コラムニスト

テクノロジジャーナリスト、オーディオ&ビジュアル評論家、商品企画・開発コンサルタント。
技術を起点に経済的、社会的に変化していく様子に着目し、書籍、トレンドレポート、評論、コラムなどを執筆。

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