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本田雅一が選ぶ いましりたい ニューストレンド 第16回 「ゲーム機高額転売」問題から読み取る、新しい事業開発の可能性 本田雅一が選ぶ いましりたい ニューストレンド 第16回 「ゲーム機高額転売」問題から読み取る、新しい事業開発の可能性

執筆時点でもまだ続いているNintendo Switchの品不足は、新型コロナウィルスの影響で中国のサプライチェーンが寸断され、生産に必要な部品の調達に支障が出たことが問題でした。想定していた生産数を出荷できず、同時に人気ゲームシリーズの最新作がリリースされたこともあり、極端な供給数不足に陥ったのです。
この問題は2月下旬からクローズアップされ、少なくとも7月いっぱいは続き、8月も品薄の状態が続いており、Switchを買い占め、高額転売する「転売ヤー」が問題視されました。
メルカリなどのフリマアプリやヤフオクだけではなく、Amazonマーケットプレイスなど個人でも参加できるECサイトに出品され、メーカー希望小売価格の1.5から2倍で販売されているのです。
問題視されているのは、転売ヤーたちがルール無用の買い占めを行っていることにあります。なぜモラル意識がない買い占めが行えるのでしょうか。その背景を掘り下げると、そこに横たわっているのは、ネットいじめ、炎上系YouTuber問題などとも通じる、ネット社会特有の問題が浮かび上がってきます。

Switchの高額転売は
いくつかの偶然もある

Switch写真

Switchが高額転売される商品として大きくクローズアップされた理由には、いくつかの偶然の重なりがあります。
人気ソフト「あつまれ どうぶつの森」シリーズ最新作の発売直前から、新型コロナウィルスの影響で生産と物流、両面での影響が出たことで供給が逼迫。さらに自粛によって生まれた時間がゲーム機需要を押し上げて品不足が深刻化。新作ソフト発売が追い討ちをかける形で転売価格も高騰しました。
さらに量販店店員を名乗る「やまだえれき」さんが、Twitterで買い占めを行う「転売ヤー」がどのような行為を行っているのかを訴え、転売ヤーによる買い占めが品不足をさらに深刻化させている主因だと指摘したことでマスコミでも報道されたのです。
さらに、彼は転売ヤーが後を絶たないのは、彼らに簡単に利益を提供してしまう、高額でも購入したいという消費者がいることを指摘。「転売ヤーからは購入しないように」と呼びかけていましたが、同種の問題も含めてモラルへの訴えかけは困難なだけではなく、解決できたとしてもそのコストは高くなりがちです。
なぜならインターネットによるコミュニケーションに、その要因が隠れているからなのです。

参加のハードルが低いことが
もたらす違い

マスクを写真に撮る

入手しにくい製品を用いて利鞘を稼ぎたい。そんなニーズはどんな時代にもあります。コンサートやスポーツイベントの入場券を正規の金額以上で再販する、いわゆるダフ行為は昔からありました。
Switchの例を遡るなら、初代ファミコンのソフト「ドラゴンクエスト」(ドラクエ)の人気が高まり、ドラクエII、IIIとシリーズ発売が続く中で、最新作と不人気作が抱き合わせ販売されていたこともよくありました。人気商品でそこに品不足が重なれば、プレミアムが乗ってくるのは当然の話で、需要と供給のシステムが機能しているだけとも言えるでしょう。
最近では新型コロナウイルスの影響で、マスクやうがい薬の「イソジン」が品不足となり、価格高騰したことも記憶に新しい話です。大阪府・吉村知事の会見を受けてイソジンを含むうがい薬が売り切れ、価格は高騰しました。無論、イソジンの場合は個人が許可なく販売すれば法的な問題(薬機法違反)があります。それでも転売が問題となったのですから、法的な転売規制ができないゲーム機ともなればブレーキがかからないのは当然でしょう。
転売ヤーといえば新しいことのように感じますが、仕入れと販売で利鞘を簡単に稼げる条件が揃っている中で、モラル意識への訴えだけで問題解決できないのは自明と言えるでしょう。
ではなぜ昨今、この問題がクローズアップされているのでしょうか。それは自浄作用やモラル意識が働かない環境が、インターネットの中に生まれているからに他ならないでしょう。例えば前述のドラクエのソフトならば、モラルに欠ける販売方法を行った販売店、あるいは横流しした流通には、次回以降の仕入れが難しくなるなど、何らかのペナルティが与えられる可能性がありました。よって正々堂々と誰もが買いやすい場所では、抱き合わせ販売は行われにくかったのです。こうした流通に関わるステークホルダーによる相互監視のシステムがモラルをもたらしています。
ところが転売ヤーは、ビジネスとして組織だって動いている場合もありますが、その多くは事業者としてのバックボーンを持ちません。事業のバックボーンなどを持たなくとも、インターネットのサービスを使えば、簡単に市場参入できるからです。

ネットの長所がもたらす、
ネットの問題

ネットショッピングサイト

例えば転売ヤーが高額転売する場のひとつに、Amazonマーケットプレイスがあります。このマーケットの特徴は、個人を含むAmazon以外の事業者も同じように同じ製品を販売できることです。
消費者がAmazonで欲しい商品がある場合、名前などで検索。SwitchならばSwitchのページが表示され、そこで在庫を持っている出品者が優先的に紹介されます。つまり在庫切れが常態化している商品の場合、本来よりも高い価格で出品者が販売することも可能です。
もちろん法的な問題はありません。個人商店レベルでも販売できることは、決して悪いことではなく、より開かれたECサイトと言えるかもしれません。しかし、そうした長所を転売ヤーは利用します。そしてAmazonで製品を検索し、Amazonが販売していると勘違いして注文してしまう人さえいるほどなのです。
Amazonの場合、「商品が届かない」「正しい商品と違う」といったトラブルの場合、簡単に返品を受け付けてくれるため、商品の素性が何であれ、さほど警戒せずに購入ボタンをクリックする人が多いことも、転売ヤーにとっては魅力です。Amazonが信用保証をしてくれているようなものとも考えられるでしょう。
これが店頭販売であれば、前述したように大っぴらには商売がやりにくく、どこかうしろめたい存在でした。現在の転売ヤーに近い活動をしようにも、オープンな場で堂々と販売できる場がなかったのです。
インターネットの長所はオープンなことで、誰もが参加できるハードルの低さは「個」の情報発信力を高めてくれます。ヤフオクなどのオークションサイトはそのひとつであるし、メルカリなどのフリマアプリ、あるいは前述したAmazonマーケットプレイスへの個人出店も延長線上にあります。
ネットやスマートフォンの普及、さらにそれらを使いこなす個人の発信力を高める、アプリやサービスの普及はプラスの作用も数多くあります。しかし一方で、その敷居の低さがモラル意識の低下を招いている側面は否めません。

販売者や市場想定価格表記
などの整備を

スマホとクレジットカードを手に持つ女性

話を戻すと、AmazonのマーケットプレイスにてSwitch が4万円で販売されているのを発見したら、祖父母などが「孫に買い与えたい」と感じることもあるでしょう。Amazonならば、万一、商品が届かなかった場合でも返金も受けられる上、ブローカーとの接触もありません。あるいは、定価がいくらなのかを把握できていない場合もあるかもしれません。ネット販売で、それが正規販売なのか、非正規販売の商品なのか曖昧でわかりにくい例は数多く見受けられます。
こうした構造的な問題に対して、消費者庁など国が取引の正常化を図るため、取引されている商品がどのような出自で、誰が販売しているのか。またメーカーによる市場想定価格の併記など、消費者がより情報を把握しやすくするための枠組み、ルールを設定するべきでしょう。
情報に接触する機会が増え、発信するハードルは低くなり、結果として情報量が増えている一方で、インターネットの世界では、各情報の出自に関する背景情報にたどり着くことが難しいか、あるいは見逃しがちです。
実店舗のように店の雰囲気が店員の応対などから、その店舗の素性を類推することはできません。その上、Amazonマーケットプレイスやメルカリのように、間に入る業者が仲介を行い、それぞれの提供するアプリでスマートフォンから簡単に取引できるとすれば、消費者のガードは大きく下がります。
大きく切り口を変えると、これは炎上系YouTuberなどにも共通する話なのです。YouTubeには興味を引く動画が多数ありますが、個人発信の情報には真偽が定かではないものも多くあります。あるいは映像そのものは本物でも、それが盗まれた(著作権者に許可されていない)ものであることも珍しくはありません。
例えオリジナルのコンテンツであっても、放送業界ほどの縛りはなく、倫理的問題のジャッジも放送局よりも甘いケースが散見されます。それでも実はこのハードルの低さがテレビ黄金期のように、YouTubeの面白さの源泉になっている部分はあるでしょう。

実社会とのルールの差にこそ
ビジネスの芽がある

街の人々

ここで「それは問題だ」で終わるならば、それは随分と面白くない話ですが、インターネットと実社会で取引やコミュニケーションのルールが異なるのなら、その間を埋めることができれば事業になり得えるのです。
ヤフオクが一気に普及したのは、Yahoo ! JAPANや決済会社が間に入り、プライバシーの保護や取引におけるリスク低下サービスを提供したからです。売り手と買い手の間に入り、そのギャップや不安を埋めるサービスがあることで発展しました。
こうした機能はメルカリにもあります。売買は個人同士で行うものですが、やはりプライバシーや支払いに関する安全性を高める機能が、フリーマーケットをネットで行うことの不安を拭ってくれるのです。
コロナ前には、ファッションやコスメの世界でインフルエンサーが活躍する機会が数多くありましたが、個人であるインフルエンサーを企業が起用するにあたり、そこには「キャスティング」という仲介事業が生まれました。
つまり、それまで法人しか参加できていなかった領域で、個人対法人のエンゲージメントを高めるアイデアを思いつけば、そこには新しい事業の芽があるということなのです。

【2020年8月作成】
本田 雅一(ほんだ まさかず)

本田 雅一(ほんだ まさかず)

フリージャーナリスト・コラムニスト

テクノロジジャーナリスト、オーディオ&ビジュアル評論家、商品企画・開発コンサルタント。
技術を起点に経済的、社会的に変化していく様子に着目し、書籍、トレンドレポート、評論、コラムなどを執筆。

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